サスティナブルという言葉、一度は耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。「持続可能な」という意味を持つ言葉で、ファッションにおいてはオーガニックやフェアトレード、アニマルフリーといった取り組みを指し、世界的なファッションキーワードになっています。そんな話題のキーワードであるサスティナブルを、日本では先駆けとして提案してきたブランドがあります。それが【カーサフライン】。今回は、ディレクターの石井瑛真(いしい・あけみ)さんにサスティナブルを意識したきっかけ、サスティナブルファッションを実現するために考えていることをうかがいました。

サスティナブル×モードが生んだ、スタイリッシュな洋服

サスティナブルやエコな服と聞くと、洗いざらしのコットン、ゆったりしたシルエットのナチュラルなワンピースなどを思い浮かびませんか? でも【カーサフライン】は真逆。「サスティナブルモード」をテーマとしているため、スタイリッシュなデザインばかり。 

(キャプション)[右]リサイクルポリウールリバーシブルコート63000円 [左]リサイクルポリニットドレス25000円

[右]ロングコートはウール100%のボア面と、リサイクルポリエステルで仕立てたキルティング面のリバーシブル。改良を重ね、軽量な着心地を実現。

[左]オーガニックコットンとリサイクルポリエステルを使った、オリジナル素材を採用したニットワンピース。アシンメトリーヘムでモードにアレンジし、ふんわりとした肩回りと長めのリブで、さりげないパフスリーブもポイントに。

環境配慮素材、リユース・アップサイクル、国内外の伝統技術を取り入れるなど、【カーサフライン】はサスティナブルポリシーというエシカルな10の取り組みを掲げ、その中の1つを必ず製品において達成させているのも特徴。

【カーサフライン】が掲げるサスティナブルポリシー

その製品で達成した項目は下げ札に記載し、商品の生産背景を見える化させている点もこだわり。

達成したサスティナブルポリシーを記載した下げ札

アパレル以外にも2020年12月からは、21日間で70%が生分解される100%天然由来の洗浄成分で作られた洗剤の発売も始めています。

「OCEAN CLEAN Natural Landry Liquid【ボトル】」 300g 2500円

【カーサフライン】表参道店限定で量り売りをしており、ボトルを持参すればよけいなゴミを出さずにすみます。

「OCEAN CLEAN Natural Landry Liquid【詰め替え】」1g 5円単位の量り売り

日本では数少ないサスティナブルなファッションブランド【カーサフライン】を立ち上げたのが、ディレクターの石井瑛真(いしい・あけみ)さん。ブランド誕生に大きな影響を与えた石井さんのアパレル業界でのキャリアスタートから振り返ります。

憧れのデザイナーになったけれど、工場との関係に疑問を抱くように

高校卒業後、大好きだった109系ギャルブランドの販売員として、アパレル業界でのキャリアを始めた石井さん。22歳で今も人気を誇るレディスブランドのデザインチームの一員となります。デザイナーになった当時は、そのブランドの人気が最高潮に達する直前。

【カーサフライン】ディレクターの石井瑛真さん

「平日は朝方まで働いて、土日も出勤していましたけど、デザイナーになりたかった私はすごく幸せでした。朝4時まで仕事して、ちょっと寝て出勤するとか。充実感がありました。振り返ると、若いからできたことですけどね(笑)」(石井さん)

24時間働くようなハードな環境で、デザイナーとして鍛えられる日々。しかしそんな働き方は長く続けられるものではありません。そんな時、石井さんを次のステップへ進ませる決定的なできごとが起こります。

【カーサフライン】2020-2021年秋冬シーズンのイメージビジュアル

「デザインチームが寝ずに働いているということは、工場の人たちは私たち以上に寝ずに縫製をしてくれているということ。工場のある地域で地震があり、心配で電話したら『地震は問題ないよ。それよりおたくの仕事の方が大変だ』って返答されて。ショックでした。人気ブランドだし、大変だけど充実しているし、私が幸せだったから工場も一緒に幸せだと思ったのに、負担を強いているって突きつけられました。自分の中にあった疑問点が大きくなると、体に不調をきたし検査入院。案の定『働きすぎ』と診断され、自分が納得できる仕事をするため退職しました」(石井さん)

サスティナブルファッションは生産背景を説明しないと意味がない

退職した当時、具体的な進路は決まっていませんでした。ただ前職の反省を踏まえ、生産者と平等な関係にしたい、肌にやさしい素材を使いたいなどのキーワードが浮かび、それらを蓄積していました。そんなタイミングで出合ったのが、サスティナブルという言葉。

「サスティナブルには、私が言語化できなかった思いが凝縮されていました。それでサスティナブルをコンセプトにしたブランドを立ち上げることに。エコ素材を使う、工場に納得してもらえる仕事を依頼する、リユース・アップサイクル、クラフトマンシップ。模範となるブランドが国内になく、どこまでルール化するのか苦戦しましたがサスティナブルポリシーを作り、必ず1つは当てはまる商品を作ることを決めました」(石井さん)

漆喰や木材など、できるだけ地球に還る素材を使用して設計された表参道店

2018年春、【カーサフライン】はデビューを果たしますが、まだサスティナブルという言葉が浸透していない頃。お手本となるブランドがない中で、少しずつ【カーサフライン】らしさを確立させていきます。

「アートやファッションは多くを語らず、作品で判断してもらう文化。私も感性重視のスタイルに憧れていましたが、サステナブルファッションはデザインも生産背景もしっかり伝えないと意味がない。当時はサスティナブルという単語にピンときていないお客様が9割以上でしたから、たくさん説明していました。たくさん語らないと価値が伝わりづらいのがサスティナブルファッションですね」(石井さん)

デザイン面でも、サスティナブルとファッションの両立は難しいと話します。

「サスティナブルに偏るとデザインがとんがれない。一方でファッション重視になると大量生産大量消費になりがち。バランスを取るのが大変です。デザイン性で買ってくれて、結果的に環境に役立つ洋服を目指しています」(石井さん)

残糸を使用した「アップサイクルモヘアニットトップス」28000円

需給バランスを取る一環で、工場で出た残糸を引き取ってニットやカットソーにしています。
「工場にとって残糸は使い道がないもの。でも残糸から服を作るには色や素材、残量などの情報が必要。工場からすると、処分するものをいちいち調べるのが面倒だから最初は断られてばかりでしたね。でも時代の流れもあって、今は残糸をリスト化して報告してくれています」(石井さん)

地球だけでなく、ファッションに関わる人すべてが幸せになるには?

デビュー時に比べ、サスティナブルという言葉もだいぶ浸透してきたのでは、と水を向けても石井さんの答えは「言葉が独り歩きしていて、本当の意味で理解している人は少ないのでは?」と冷静な返答。

「サスティナブルは部分的に取り組むのでは意味がありません。業界の構造自体を変えないといけませんが、それは難しい課題です。だからサステナビリティを完全に表現しているブランドは、うちを含めてまだないですし」(石井さん)

プラスティックフリーを目指し、オリジナルの木製ハンガーを採用。掛けた服が立体的に見えるようハンガーのシルエットにもこだわっています

今、増えているのがオーガニックコットンを使用した製品。部分的ではありますが、サスティナブルに取り組むブランドの広がりを感じます。でも石井さんの口から語られたのはサスティナブルとは対照的な現実。

「オーガニック認証されていれば、普通の綿より優れている、肌にやさしい印象がありますが、実は検証をされていません。ただニーズは高いから、山を切り崩してオーガニックコットン用の畑にする開発が進み、農薬をまかれないように無関係な近所の人ですら畑のそばを通れないくらい厳重に警備をしている。その生産現場っておどろおどろしいですし、現場の人たちは疲弊しています。一方で従来の綿農家は仕事が奪われている。ユーザーが言葉に惑わされるのは、きちんと説明をしていない業界の責任を感じます」(石井さん)

私たちユーザーは「安く・早く・うまい」洋服を求めがち。そのうえ普通の綿よりも高コストなオーガニックコットンを要求したら、しわ寄せは生産者に行ってしまいます。

【カーサフライン】デビュー時からのアイコンアイテムである「フロントホックデニムロングワンピース」32000円

アパレルは外部から見えづらい、不透明な業界とよく言われます。メーカーとユーザーのアンバランスな関係がサスティナブルへの歩みを遅くしている、と石井さんは指摘します。

「スーパーに置かれた野菜は生産者の顔が見えるのが当たり前になりつつあり、有機栽培野菜のコーナーもあります。だけどファッションは誰が作っているのか、よくわからない。だからユーザーは言葉のイメージで選ぶしかない。小泉進次郎環境大臣が国内ファッションのサスティナブル促進を提案していますが、国がみんなの意識を変えるルールを作り、それぞれのブランドが情報を共有・開示してお客様の理解を進め、もっといいものづくりをしなければいけません。デザイナーもオーガニックコットンを使ったコレクションを作りましたよ、では努力が足りない。究極の話、一番サスティナブルなことは、生産しないこと。それでも生産したいなら作る責任を考えなければいけないですよね」(石井さん)

時代の少し先を行く発想をする【カーサフライン】。そう思われることは石井さんにとって、座りの悪さを感じるとのこと。

「日本には『もったいない』や『足るを知る』って言葉があり、サスティナブルって本来日本人みんなが持っていた感覚。【カーサフライン】は新しいことをしているようで、よけいなものを削ぎ落とした日本人の原点のようなブランドだと考えています」(石井さん)

【カーサフライン】2020-2021年秋冬シーズンのイメージビジュアル

最後に石井さん個人が今後取り組みたいことを尋ねました。

「工場の工賃が以前から上がるどころか、下がっています。もっと安く、もっと早くのニーズが進んだ結果、日本に技術を学びに来た外国人に技術を流出され、国内アパレル企業も賃金の安い国外に発注するのが当たり前。どうにかしないと、アパレルに限らず日本の生産に未来はありません。お客様に価値を伝える国内生産のクリエーションをして、生産現場を盛り上げるきっかけを作れたら。日本の工場って技術はもとより、真心が本当にすごいんですよ! 仕事に向かう姿勢が違うから糸1本にも出ています。そういう職人の素晴らしさも伝えていきたい。今はものを作って完結ではなく、その先も考えなければいけない時代。デザイナー志望の人たちとこれからの時代に即した教育やマインドを共有し、従来の仕組みではなく新しいアパレル業界に生まれ変わらせて、ユーザーとの間でいい循環を生み出せるコミュニティを作りたいですね。もちろん楽しく! おしゃれに! 堅苦しいのは性に合わないので(笑)」(石井さん)

※価格はすべて税別です

【カーサフライン】公式サイト

Writer:津島千佳


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