筆者の話です。
定年後は、夫婦でゆっくり過ごせるものだと思っていました。
けれど実際に始まった毎日は、想像していた老後とは少し違っていて──。

思わず出た言葉

その日も、夫は大音量のテレビを観ながらソファに座っていました。
私は頭痛をごまかしながら洗濯物を畳んでいましたが、何度目かの「これどこ?」を聞いた瞬間、つい口から言葉が出てしまったのです。

「お小遣いあげるから、パチンコ行ってきたら?」
私はそう言って、一万円札を差し出しました。
夫はお札と私の顔を交互に見ながら
「そんなに邪魔か?」
と苦笑いしたのです。

「貸してくれ」と言われて渋々渡したことはあっても、自発的に夫にお金を差し出したのはこれが初めて。
夫の苦笑いを見た瞬間、私は思わず視線をそらしました。
テレビの音がしない部屋で、一人になりたいと思ってしまったのです。

必要な距離

もちろん、夫が嫌いになったわけではありません。
長年仕事を頑張ってきた夫にとって、家で過ごす時間が増えるのは自然なことです。
けれど、どんなに仲がよくても、ずっと同じ空間にいると息が詰まる日もあります。
数十年かけて出来上がった生活のリズムが急に変わってしまった戸惑いもあったのかもしれません。

最近は「ちょっと散歩してくるわ」という夫の声に、少しホッとする自分もいます。
逆に私が一人で買い物へ出たりと、お互いに少し離れる時間を作るようになりました。
定年後の暮らしは、「ずっと一緒」に慣れることではなく「無理をしすぎない距離感」を見つけていくことなのかもしれないと思った出来事です。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2026年5月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。