あのころの私は、いつも何かに追われていました。下の子を妊娠し、産休に入ったのは、上の息子が2歳になったばかりのころ。一緒にいられる時間が増えた喜びと裏腹に、日々はどんどんハードに。そんな限界寸前の日、スーパーで見知らぬおばあさんにかけてもらった一言が、固く結んでいた何かをほどいてくれました。
おばあさんが近づいてきた
そのとき、買い物かごを持った小柄なおばあさんがそっと近づいてきました。
「うるさくてすみません」と謝らなければと身構えました。
ところがおばあさんは、泣き続けるS輔ではなく、私の顔を見てこう言いました。
「大変だよね」
それだけで、もう涙が溢れそうでした。
おばあさんはさらに続けます。
「あなたが一生懸命なの、ちゃんと伝わってるよ。私もね、昔はそうだったよ」
それだけ言うと、おばあさんはにっこり笑ってその場を去りました。
ほどけた瞬間
S輔はまだ泣いていました。でも私の中で、何かがふっとほどけました。
完璧にやらなきゃ。ちゃんとしなきゃ。泣き止ませなきゃ。
そればかり考えていました。
でも一生懸命やっていること自体を、見てくれている人がいた。
それだけで、十分でした。
名前も知らないおばあさんに、あの日どれだけ救われたかわかりません。
子育ては完璧にやるものじゃなくて、一生懸命やるもの。
そう気づかせてくれたのは、スーパーで出会った見知らぬ人の、たった一言でした。
【体験者:30代女性・主婦 回答時期:2026年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:K.Matsubara
15年間、保育士として200組以上の親子と向き合ってきた経験を持つ専業主婦ライター。日々の連絡帳やお便りを通して培った、情景が浮かぶ文章を得意としている。
子育てや保育の現場で見てきたリアルな声、そして自身や友人知人の経験をもとに、同じように悩んだり感じたりする人々に寄り添う記事を執筆中。ママ友との関係や日々の暮らしに関するテーマも得意。読者に共感と小さなヒントを届けられるよう、心を込めて言葉を紡いでいる。