離婚後、数ヶ月に一度だけ父親に会える日を、息子はいつも楽しみにしていました。誕生日も近く、野球を頑張る息子は父にバットをお願いしようと嬉しそうに出かけたのですが、帰ってきたときの表情は浮かないものでした。あの日、息子が本当に欲しかったものに気づき、胸が痛くなった筆者の体験談です。

勇気を出したお願いに返ってきた冷たい言葉

ところが帰ってきた息子は、明らかに悲しそうな顔をしていました。
バットどころか、プレゼントらしきものは何も持っていません。

聞けば、勇気を出してお願いしたバットに返ってきたのは「自分の小遣いをためて買え」という冷たいひと言。毎月のお小遣いでは、買える頃には小学校を卒業してしまいそうな金額です。

それを聞いた私は、母親として居ても立ってもいられませんでした。
息子の心が少しでも楽になるようにと、次の日息子がずっと欲しがっていたバットを買いに行ったのです。

息子が欲しかったのは“気持ちを受け止める言葉”

学校から帰ってきた息子にそのバットをプレゼントすると、息子は大喜び。
もう一度、元気な笑顔を見せてくれました。

もしかしたら誕生日という特別な日に欲しかったのは、バットそのものより「野球、頑張ってるな」「応援してるよ」と、気持ちを受け止めてくれる父親の言葉だったのかもしれません。

そして今思えば、あのとき不安そうにしていた息子の背中を押した私のひと言も、息子を余計に傷つけてしまったのではないかと胸が痛みます。
会える回数が少ない関係だからこそ、あの日うつむいたまま帰ってきた息子の寂しそうな表情が、今でも忘れられません。

【体験者:40代・筆者、回答時期:2026年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:森奈津子
海外生活や離婚、社会人での大学再入学など、多彩な経歴を持つライター。現在は幼稚園教諭として保護者の悩みに寄り添うほか、日々の人付き合いの中から生まれるリアルな本音に耳を傾け、多様な価値観に触れてきた独自の視点でそれらを記事にしている。