転職や就職の面接では、いかに自分を魅力的に見せるか、熱意を伝えるかに心を砕くものではないでしょうか。しかし、考えて練り上げた言葉よりも、時には単純な一言のほうが人の心を動かすこともあるようです。今回は、筆者の友人の体験談をお届けします。

予想外すぎる志望動機

ところがAさんは、一切の飾り気なくこう言い切りました。

「家から自転車で5分だからです。通勤時間を一秒でも削って、自分の時間を最大化したいと思い、御社を志望しました」

あまりにも率直な答えに、一瞬で凍り付いた会議室の空気。
耳当たりの良い言葉が返ってくるだろうと確信していた私は、思わず言葉を失いました。

しかし、不思議と嫌な感じはしませんでした。
むしろ、お手本のような綺麗な言葉を並べる人よりも、心からの本音を語る彼女の方が、ずっと信頼できると直感で感じたのです。

心に残った“正直さ”

建前で塗り固めた熱意は、入社後のギャップですぐに冷めてしまうもの。
でも「家から近い」という単純すぎる理由は、嘘がない分、揺るぎない原動力になるかもしれない。

Aさんは自分の欲求に正直で、それを説明できる誠実さと合理性を持っていました。

結果、私を含めた面接官の判断により、Aさんの採用が決定。
実際に働き始めると、彼女の仕事ぶりは期待以上でした。
一分でも早く帰るために、誰よりも速く、徹底的に無駄を省いてタスクを完遂するのです。

等身大の理由

Aさんにとっての効率化は、自分の時間を確保するための切実な手段。
だからこそ、口先だけの熱意より現実味がありましたし、てきぱきと仕事を進める姿勢は、「自分の時間を大切にする」という彼女の軸としっかり結びついていました。

今日もAさんは、その日のタスクをきちんと済ませて、定時と同時に「お疲れ様です!」と立ち上がり、軽やかに自転車で去っていきます。
その迷いのない背中を見送るたび、私は「今の時代、働く理由はもっと自由でいいんだ」と、どこか晴れやかな気持ちになるのです。

【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2026年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。