15年越しの真実
真相を知ったのは、私が結婚して実家を離れた後のことでした。
帰省中に母と2人で話していた際、ふと父の断酒の話題になったのです。
「実はお父さんがお酒をやめたのは、健康のためじゃなかったのよ」
と、母は苦笑いしながら教えてくれました。
高校2年生の時、私は一度だけ、塾の帰りに不審者につきまとわれたことがありました。
幸い、走って逃げて事なきを得たのですが、その件で私がひどく怯えていたことを知った父は、翌日から「いつ娘から助けを求める連絡があるか分からない」と、自分の意思でお酒をやめたのだそうです。
父の静かな決意
「すぐに車を出せるようにしておきたいから」
父はそう言って、私が大学を卒業し、就職して独り立ちするまで、楽しみだった晩酌と夜の自由を捨ててずっと待機してくれていたのです。
私はそんなことに気付きもせず、気まぐれに友達と出掛けては遅くなったり、深夜までアルバイトをしたり……きっと父のことをひどく心配させていたに違いありません。
お酒の代わりに日本茶をすする父の横顔を思い出し、申し訳なさと感謝で胸が熱くなりました。
不器用な父は私のためだなんて一言も言わなかったけれど、父のその行動にはきっと、深い覚悟と大きな愛情が詰まっていたのでしょう。
言葉にしない愛情
30歳を過ぎ、ようやく気づいた父の背中の大きさ。
私が当たり前だと思っていた安全な毎日は、父の静かな決意によって守られていました。
次に実家に帰るときは、とっておきのお酒を持っていこうと思います。
今度は私が父にお酒を注ぎ、15年分の「ありがとう」を伝えたい。
不器用な親子ですが、お酒を酌み交わせば素直に気持ちを言い合えるかもしれません。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年2月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。