新しい環境に飛び込み、不安や孤独を感じる人も多い季節ではないでしょうか。
筆者も看護師として働き始めたばかりの頃、慣れない土地と仕事に戸惑い、毎日のように泣いて過ごしていた時期がありました。そんな私をいつも気にかけてくれていたのが、入退院を繰り返していた80代の患者さんと、そのご主人でした。
今回は、ある春の日に起きた出来事と、「オレンジのスカート」をきっかけに知ったご夫婦の深い愛情についてご紹介します。
「若い頃、主人に会うときはいつもオレンジのスカートと白いブラウスだったの」
「主人、覚えていてくれたのね」
そう言って、Yさんは涙を流しながら微笑みました。
私は、その姿を見て思いました。
「このご夫婦に、もう一度思い出の時間を作ってほしい」と。
先輩たちに相談すると、「それは大切な看護ね」と協力してくれることになりました。
Yさんの希望は「もう一度、主人の前で綺麗でいたい」ということ。
私は整容ケアを勉強し、負担をかけない程度に髪を整えたり身だしなみを整えたりしました。
そして、Yさんが鏡を見たとき、
「あぁ、綺麗になったね」
とご夫婦は涙を流して喜んでくれました。
4月になると思い出すオレンジのスカート
それから数日後。
Yさんは静かに天国へ旅立たれました。
その日は、私が夜勤に入っていた日でした。
「ありがとうね」
最後にそう言葉を残してくれました。
私はご主人と一緒に、ご希望に沿う形で心を込めてエンゼルケアを行い、Yさんの好きだった口紅をつけました。
周囲の先輩たちはこう言いました。
「きっとYさん、あなたを待っていたんだね」
その言葉を聞いた瞬間、私は堪えていた涙が止まりませんでした。
4月になると、私はいつも思い出します。
あの日履いていた、オレンジのスカートと白いブラウス。
スカートはもう擦り切れて着ることはできません。
それでも今も、捨てることができず大切に手元に残しています。
あの春の日に出会った、ご夫婦の深い愛情の記憶とともに。
【体験者:30代・筆者、回答時期:2026年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:Anne.R
看護師として9年間、多くの人生に寄り添う中で「一人ひとりの物語を丁寧に伝えたい」とライターの道へ。自身の家づくりやご近所トラブルの実体験に加え、現在は周囲へのインタビューを通じ、人間関係やキャリアなど女性の日常に寄り添った情報を発信している。