新しい環境に飛び込み、不安や孤独を感じる人も多い季節ではないでしょうか。
筆者も看護師として働き始めたばかりの頃、慣れない土地と仕事に戸惑い、毎日のように泣いて過ごしていた時期がありました。そんな私をいつも気にかけてくれていたのが、入退院を繰り返していた80代の患者さんと、そのご主人でした。
今回は、ある春の日に起きた出来事と、「オレンジのスカート」をきっかけに知ったご夫婦の深い愛情についてご紹介します。
新人看護師だった私を励ましてくれたYさん
私は看護師1年目の頃、実家を離れ県外の病院に就職しました。
慣れない夜勤や仕事、知らない土地での生活。
家に帰ると毎日のように涙が出てしまうほど、心も体も余裕のない日々でした。
そんな私をいつも気にかけてくれていたのが、80代の女性患者・Yさんでした。
Yさんは体調を崩し入退院を繰り返しており、私が働き始めてからすでに何度も病院に来られていました。ご夫婦はとても仲が良く、別の病棟に入院していても、わざわざ私を探して声をかけてくださるほどでした。
あるとき先輩から「あなた、Yさんに似てるわね。親子みたい」と言われたことがきっかけで、Yさんは私を娘のように可愛がってくれるようになりました。
「私で練習しなさい。失敗してもいいから」
そう言っていつも優しく声をかけてくださるYさんのおかげで、私はなんとか新人時代を乗り越えることができたのです。
オレンジのスカートの日
看護師2年目を迎える直前の3月。
Yさんは再び入院してきました。
しかしそのときには、以前のように起き上がることも難しい状態になっていました。
病院という場所では、再会は「病気のとき」です。
会えるのは嬉しいのに、胸が締め付けられるような気持ちになる。そんな複雑な思いを抱えていました。
そして4月のある日。
その日は私の休日で、気分転換に外出することにしました。
オレンジ色のスカートに白いブラウス。
春らしい服装で出かけ、寮へ戻るため病院の前を通って帰宅しました。
それが、思いがけない出来事につながるとは、そのときは思ってもいませんでした。
ご主人が見せてくれた一枚の写真
翌日、先輩から「Yさんのご主人があなたを呼んでいるよ」と声をかけられました。
ナースステーションに行くと、ご主人は写真を大切そうに手に持ちながら、穏やかな笑顔で私を見ていました。
「あなたに聞いてほしい話があるんです」
そう言われ、師長が用意してくれた別室でお話を聞くことになりました。業務の合間の短い時間でしたが、ご主人の真剣な眼差しに、大切な何かがあると感じたのです。
ご主人は、そっと写真を差し出しました。
そこには、若い頃のYさんが写っていました。
まるで女優さんのように美しく、カメラの向こうにいるご主人を愛おしそうに見つめています。
「素敵ですね」と私が言うと、ご主人は静かにこう話しました。
「昨日、あなたの私服姿を見かけました。オレンジのスカートが風に揺れていて……若い頃の妻にそっくりだったんです」
懐かしそうに写真を撫でながら話すご主人の姿に、私は思わず涙があふれました。
もう一度、綺麗な姿で
その後、私はYさんの病室へ向かいました。
「主人に捕まったんでしょう?」
Yさんはそう言って、いつものように笑いました。
ご主人から聞いた話を伝えると、Yさんは静かにこう言いました。