定年後、社交ダンス教室を見学したいと言い出した筆者の父。酔うと語る武勇伝を半信半疑で聞いていたのですが、教室で目にしたのは想像を超える光景でした。「頑固親父」の意外な一面を知ったエピソードです。

酔うと始まる、あの自慢話

父が定年退職してしばらく経った頃のことです。
「運動不足解消と姿勢改善のため、社交ダンスを始めようと思う」と言い出しました。

「若い頃は社交ダンスをやっていた」
「プロにならないかと誘われたことがある」
「女性が自分の前に行列をなしていた」

酔うと必ず出てくるいつもの自慢話です。正直なところ、家族は「また始まった」と聞き流していました。
そういえば、昔トロフィーを見た記憶もあります。

「見学に行くから一緒に来てくれ」
初めての場所は緊張する、と少し情けない父。
踊る父を見てみたくて、私はついて行くことにしました。

教室の端で見学

社交ダンス教室は、明るく華やかな空間でした。
音楽が流れ、皆さん楽しそうに踊っています。

父は、教室の端の椅子に座って見学していました。
そのとき、女性の先生が近づいてきました。
「ご経験はありますか?」
父は急に小さな声で
「若い頃に、少しだけ……」
先生はにっこり笑って、
「では、少し踊ってみましょうか」と父の手を取りました。