筆者の話です。
卒業式の日、私はほとんど覚えていない出来事がありました。
あとから親に聞かされて、初めて意味を知ります。
卒業式の日、私はほとんど覚えていない出来事がありました。
あとから親に聞かされて、初めて意味を知ります。
すれ違う時に挨拶
中学3年生の時、担任のA先生の奥様が、私立高校で家庭科を教えていました。
その年、私の学年からも複数人がその高校を受験し、無事に合格しています。
私といとこも、その中の一人でした。
入学後、校舎の廊下ですれ違うたびに、私たちは声をかけていました。
「A先生、元気ですか?」
「あいかわらずよ」
そんな短いやり取りをして、そのまますれ違っていました。
それを特別な行動だと思ったことは、一度もありませんでした。
当たり前の日
声をかけると、先生はいつも笑顔でうなずいてくれました。
忙しそうな時は、軽く会釈を返してくれるだけの日もあります。
挨拶を交わしても、そのあとはすぐに友だちとの会話に戻ります。
授業のことや、放課後の予定。
私たちの意識は、いつも目の前の高校生活に向いていました。
あのやり取りが、誰かの記憶に残っているとは考えもしなかったのです。
卒業式の花
卒業から数年経った頃、母から聞かされた話があります。
卒業式の日、先生が私といとこそれぞれに、花束を用意して渡してくれていたというのです。
「ちゃんと覚えていてくれたんだよ」
その一言で、私は初めてその光景を想像しました。
式のあと、人の流れが行き交うざわついた会場で差し出された花束。
けれど私は、その出来事をまったく覚えていませんでした。