「えー、なんでよ!」
女性の大きな声がしたのでTさんが顔を上げてレジの方を見ると、パンとコーヒーを落としたお客様がレジ係に詰め寄っています。
「あのパン最後の1個だったのよ! もうないの? 今焼いてるなら焼き立てを出してよ」
しかしもう同じパンを焼く予定はなかったので、同じ金額のパンではどうかと困ったようにレジ係が言っているのが聞こえます。
「パンがないのは店の責任でしょ!? 好きなものを選ばせてよ、ちょっと高くてもいいわよね?」
「それはちょっと……」
差額の出る交換はお店のルールでは対応できません。Tさんが助けに入ろうとした、その時でした。
有難い助けが
「さっきから見てたんだけど、あなた自分で落としたのに謝りもしないで、そんな図々しいこと言うもんじゃないわよ。お店の優しさに甘えすぎちゃいけないわ」
文句を言う女性の後ろでレジに並んでいた高齢の女性が、穏やかながらも毅然とした口調で割って入ってくれたのです。
「わかったわよ、もう。これでいいわ」
女性は渋々同じ金額のパンを選んで、席に戻っていきました。
お店が提供するサービスは、決して「当たり前」ではありません。Tさんも、お客様に残念な思いをしてほしくないという一心で、これまで何度も新しいパンをお出ししてきました。
しかし「やってもらって当然」という空気が広がれば、こうした善意のサービスを続けていくことは難しくなるのではないかとTさんは思ったそうです。
お店の人がいくら親切にしてくれるからといって、甘えすぎるのは良くありませんね。
【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2026年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。