親の気持ちは、大人にならないと理解できないものですよね。子どものころは当たり前だと思っていた日常の裏側に、どれほど親の覚悟が秘められていたのか、大人になって初めて知ったという方もいるのではないでしょうか。今回は、筆者の知人のエピソードをご紹介します。

数年後に知った衝撃の事実

父の涙の意味を知ったのは、それから数年後の帰省中でした。
不意に、母がこう漏らしたのです。

「あなたが大学2年のとき、お父さんの会社、倒産したのよ」

耳を疑いました。

暮らしぶりに変化はなかったし、学費の支払いも遅れたことはなかったはずです。
それどころか、「アルバイトもいいが、勉強もちゃんとするんだぞ」と、月々の小遣いまでくれていました。
実家がまさかそんな苦境にあったとは、当時の私は想像もしていませんでした。

父が守り続けたもの

母は続けて、さらに信じがたい事実を話してくれました。
父は倒産後、私の学費を確保するために、深夜に警備員として働いていたそうです。

さらに、昼間はスーツを着て「仕事に行くフリ」までしていたといいます。
家族に心配をかけないように、かつての自分の立場や体裁には一切こだわらず、必死に「父親」としての役割を守り続けていた父の孤独な戦いを知り、私は言葉を失いました。

そして、その事実を知ったとき、卒業式の日の父の涙がよみがえりました。
今思い返すと、あれは私を無事に送り出せた安堵と、長い緊張から解放された瞬間の涙だったのでしょう。

父の本当の強さ

最近、父の背中が少し小さくなったように見える瞬間があります。
でも、私にとってはどんな大企業の社長よりも大きく、誇らしい存在です。

自分の苦境を一切見せず、ただ娘の未来を守るために、心配させないために、なりふり構わず家族を支え続けた父の強さ。
おかげで私は何不自由なく、大学を卒業させてもらうことができました。

厳しく接してきたあの頃の父も、何も言わずに踏ん張り続けていた父も、私にとっては同じくらい尊敬すべき存在です。
父が繋いでくれたこのバトンを大切に、今度は私が、誰かのために一生懸命になれる大人でありたいと思います。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年12月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。