その言葉に続いて明かされたのは、衝撃の真実。
実は、父の「仕事」の正体は、別の場所にある「もう一つの家庭」でした。
父は母と結婚していながら別の女性とも関係を持ち、20年以上も二つの家庭を行き来する二重生活を続けていたのです。
母は私が物心つく前からその事実を知っていましたが、私のために離婚という道を選ばずに、沈黙を守り続けていました。
母の選択と孤独
「あなたから、お父さんを奪いたくなかったの」
大好きなお父さんが裏切り者だなんて、娘に知られたくない。
母は、私が温かい思い出の中で育つよう、一人で屈辱に耐え、誰にも言えない重荷を背負い続けてきたのです。
さらに、母は言いました。
「それにね、私が“捨てられた妻”に見られるのも怖かったの。当時は、自分の選んだ結婚を失敗だったと認める勇気がなかったのよ」
その言葉には、母が世間体や自尊心と戦いながら、たった一人で孤独に戦ってきた20年間の苦しさが滲んでいるようでした。
たとえそれが嘘であったとしても、私の幸せな子供時代を必死に守り抜いてくれたのは、母だったのです。
これからは自分と母のために
その後、父は母に看取られて旅立ちました。
父の不貞はもちろんですが、それをあえて飲み込み、沈黙を貫いた母の選択も、今の多様な価値観から見れば、様々な意見があるかもしれません。
しかし、母の壮絶な覚悟を知った今、心にあるのは「騙されていた」という怒りではありません。
母への深い感謝と尊敬です。
自分の感情を押し殺し、「母」として、そして「一人の女性」として私のために人生を捧げてくれた母。
これからは、母が自分のために笑う時間を一秒でも増やしたい。今度は私が母を支える番だと心に決めています。
「真実を知ること」だけが正解ではなく、嘘をついてまで守りたかった愛もある。
母が心穏やかに過ごせる毎日を、これからは大切に積み重ねていきたいと思います。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。