筆者の話です。自閉症の長男を17年間診てくれた小児精神科医。「障害年金の診断書も僕が書くよ」という約束を信じていたのに、いざ20歳を迎えると診察は流れ作業化され、ほとんど話を聞いてもらえませんでした。当然ながらその医師の診断書の内容での申請は却下。私は苦渋の決断を迫られます。長年の恩と息子の未来、天秤にかけたその選択とは……。

葛藤と決断

そして、運命の日がやってきました。

長男が20歳になり、障害年金の申請をしました。

U医師が記載した診断書を提出し、数ヶ月後、通知が届きました。

「申請が却下されました」

私は目の前が真っ暗になりました。

診断書の内容が、今の長男の生活実態を十分に反映しきれていなかったのです。

「あんなに長年診てもらっていたのに……」

私は悔しさと絶望で涙が止まりませんでした。

その頃、長男はすでに成人の精神科への紹介状を渡されていました。

U医師のクリニックは小児専門なので、もう通えません。

再申請をするにあたり再度医師による診断書が必要なのですが、私は迷いました。

もう一度U医師に頼むべきか。

それとも、新しい精神科の医師に依頼するべきか。

しかし、最近のU医師の態度を思い出しました。

長男の様子をA4用紙数枚にまとめて「状況を把握してほしい」と頼んでも、お忙しいためか、聞き入れてもらうことは叶いませんでした。

「忙しいから、そういうのは診察で話してください」

そう言われて、結局何も伝えられなかったのです。

17年間お世話になった恩はあります。

しかし、長男の未来のためには、今の状況に真剣に向き合ってくださる医師が必要なのです。

「過去の感謝」と「これからの生活」を天秤にかけ、悩み抜いた末、新しい精神科の医師に頼むことに決めました。

新たな希望

新しい精神科のクリニックを訪れた日、私は緊張していました。

新しい主治医であるS医師は、初診から驚くほど丁寧でした。

「お母さん、今日は時間をたっぷり取ってあるので、これまでの経緯を全部聞かせてください」

S医師は1時間以上かけて、長男の幼少期からの様子、学校生活、家庭での困りごと、全てに耳を傾けてくれました。

私が持参した用紙にまとめた長男の状況も、じっくりと読んでくださいました。

「これ、とても参考になります。ありがとうございます」

そして、診断書の作成にあたっても、何度も確認をしてくださいました。

「この表現で、息子さんの状態が正確に伝わるでしょうか」

こんなに真剣に向き合ってくださる医師がいるのだと思うと、私は涙が出そうになりました。

数ヶ月後、S医師が作成した診断書で再申請をした結果、無事に障害年金が認定されました。

通知を見た瞬間、私は安堵と喜びで涙が溢れました。

U医師には、幼い長男を支えてくださった感謝の気持ちでいっぱいです。

しかし、医師にも患者にも状況の変化は訪れます。

一つの場所に留まることだけが「信頼」ではなく、子供の成長に合わせて最適な環境を選び直す勇気が必要なのだと学びました。

長男は今、S医師のサポートを受けながら自分のペースで前に進んでいます。

新しい医師に出会えたことは、私にとっても大きな救いでした。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2026年1月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:藍沢佑菜
管理栄養士の資格を持つ、2人の自閉症男子のママ。自身の育児環境の変化をきっかけに、ライター活動をスタート。食と健康を軸に、ライフスタイル全般のコラムを得意とし、実体験に基づいたリアルな記事を執筆中。専門的な情報を「わかりやすく、すぐに日常に取り入れられる形」で伝えることが信条。読者の「知りたい」に寄り添い、暮らしを整えるヒントを発信しつづけている。