それから5年後、私は別の企業から依頼された保健指導をしていた時、偶然にもXさんの会社の担当の方に会いました。
世間話の流れから、Xさんの話題になりました。
「ああ、Xさん……実は3年前に倒れて、入院したんですよ。脳梗塞だったみたいです。幸い命は助かったんですけど、今もリハビリ中で」
私は言葉を失いました。
伝えられなかった思い
「Xさん、今は本当に変わったんですよ。リハビリの先生や栄養士さんの言うこと、とても真面目に聞いてるって。『もっと早く気づいていれば』って、いつも言ってるみたいです」
私は複雑な気持ちになりました。
「あの時、もっと違う接し方ができていれば。本人の心の壁を少しでも溶かすことができていれば……」
防げたかもしれない未来を思うと、専門職として悔しさがこみ上げます。
健康指導の現場では、受け入れる準備ができていない人もいます。
その拒絶の裏には、恐れや無関心、あるいは「自分だけは大丈夫」という根拠のない自信が隠れていることがあります。
Xさんは、身をもってそのことを学んだのでしょう。
この出来事以来、私は「話を聞いてくれない」と嘆くのではなく、相手がなぜ拒絶しているのか、その背景をより深く想像して向き合うようになりました。
私ができることは、これからも一人ひとりに真摯に向き合い続けることだけ。
そして、Xさんのような後悔を抱える人が、一人でも減ることを祈るばかりです。
【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢佑菜
管理栄養士の資格を持つ、2人の自閉症男子のママ。自身の育児環境の変化をきっかけに、ライター活動をスタート。食と健康を軸に、ライフスタイル全般のコラムを得意とし、実体験に基づいたリアルな記事を執筆中。専門的な情報を「わかりやすく、すぐに日常に取り入れられる形」で伝えることが信条。読者の「知りたい」に寄り添い、暮らしを整えるヒントを発信しつづけている。