知人のKさんの話です。名門校に通う完璧なお嬢様。12年間、母親の指示通りに生きてきた娘が、突然すべてを拒絶し始めます。お風呂にも入らず、部屋を破壊し、母親に暴力をふるう。困惑した母が学園のカウンセラーから聞かされた真実とは? 娘の心に溜まっていた「名前のつけられない感情」の正体とは。
完璧なコントロールの果てに
Kさんの娘さんは、誰もが羨む「お金持ちの家の女の子」でした。
幼稚園から名門A学園に通い、制服はいつもパリッとアイロンがけされ、髪は丁寧に三つ編みに結われていました。
しかし、その平穏な日常の裏側には、ある危うさが隠されていたのです。
「今日は青いリボンをつけるのよ」
「算数のドリルはこのページまで」
「お友達とは適度な距離を保ちなさい」
「習い事は月曜はピアノ、火曜は英会話、水曜は……」
娘さんの人生のすべては、Kさんによって事細かに管理されていました。
起きる時間、着る服、食べるもの、話す言葉、笑顔の作り方。
娘さん自身が何かを「選ぶ」という経験は、12年間の人生で一度もありませんでした。
周囲はKさんを「教育熱心な素晴らしいお母様」「しつけの行き届いたお嬢様」と絶賛しました。
けれど娘さんの心の中には、名前のつけられない感情の闇が、少しずつ確実に溜まっていたようでした。
突然の拒絶
娘さんの異変は中学部に進学して二週間後に、突然始まりました。
「お風呂に入りなさい」というKさんの声に、娘さんは応じません。
翌日も、その翌日も。
気づけば一週間も入浴を拒否していました。
それだけではありません。歯磨きもしない。制服の下着も替えない。
Kさんは困惑しました。「どうして言うことを聞かないの?」と優しく問いかけました。
しかし娘さんは無言で、ただじっとKさんを見つめるだけでした。
その目には、12年間見たことのない強い感情が宿っていました。
そして、その視線は次第に激しい拒絶の感情へと変わっていきました。
「お母さんの言うことを聞きなさい!」
Kさんが声を荒げた瞬間、娘さんの中で何かが弾けました。