筆者の話です。
学生の頃、地元の港に推しアイドルが来ることになり胸が高鳴りました。
その熱を隠していた私に、父がそっと差し出してきた『ある一枚』とは──。

父の一言

そんな数日後、父が帰宅すると突然「ほれ」と写真を差し出してきました。
手渡された束には、役員仲間に頼んで撮ってもらったステージ写真や、まさかのサイン色紙まで入っていました。
その場では事情が飲み込めず戸惑いましたが、後日、役員をしていた近所の方から「あのサインね、実は全員にもらえたわけじゃないんよ。お父さんが『娘が好きだから』って言うて、もらって帰ったんよ」と聞きました。

その言葉で一気に胸の奥が熱くなりました。
寡黙な父が、あの日の私の興奮や喜びをそっと受け止め、限られた一枚を持ち帰ってくれていたと知ったのです。
驚きと照れくささと嬉しさが、静かに押し寄せました。

宝物の一枚

無口で照れ屋の父が、ぶっきらぼうに手渡してくれた一枚。
その写真は、今でも大切な宝物です。
貼る場所もない暮らしだった私に、父なりのやさしさで寄り添ってくれたのだと感じます。
言葉にしなくても、父はちゃんと私を見てくれていた──そう感じた出来事でした。

【体験者:50代女性・筆者、回答時期:2025年12月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。