筆者の話です。
学生の頃、地元の港に推しアイドルが来ることになり胸が高鳴りました。
その熱を隠していた私に、父がそっと差し出してきた『ある一枚』とは──。
学生の頃、地元の港に推しアイドルが来ることになり胸が高鳴りました。
その熱を隠していた私に、父がそっと差し出してきた『ある一枚』とは──。
港の熱気
地元の港で歌番組の中継があると聞き、私は密かに浮き立っていました。
推しアイドルが来るというだけで、リハーサルから本番まで目が離せません。
当時の私は自分の部屋もなく、ポスターすら貼れない暮らしで、家族に気持ちを話すこともありませんでした。
父は町内の役員として動いていましたが、私の熱量までは届いていないと思い込んでいたのです。
言えなかった好き
盛り上げてほしいということで近所の人たちが港に集まることになり、私も朝からそわそわしていました。
ベストポジションを確保するため早めに向かい、カメラの邪魔にならない真後ろに立ちました。
わずかでも推しに近づきたくて、いつもより少しだけおしゃれをして臨んだ生中継。
ステージに立つ姿を間近で見られた嬉しさは大きく、その嬉しさが胸に残り、興奮の余韻で眠れない夜になりました。
深夜に片づけから戻った父とは必要な会話しかしない時期で、無口な背中を見ていると、好きな気持ちを伝えるきっかけがさらに遠ざかるようでした。
言い出せなかった「好き」は、家の空気の中で自然と影をひそめていったのです。