今回ご紹介するのは、筆者の友人A子が厳格な父に夢を否定されながらも自分の道を貫き、時を経て父と本音で向き合えた日の物語です。

思いがけない父の言葉

就職して5年目の冬、初めて受け持った広告が街中に掲示されることになりました。
母に知らせると、「お父さんも見たいって」と言われ、正直少し戸惑いました。
数日後、久しぶりに実家へ帰ると、玄関で父が不器用に言いました。
「……見たぞ。あれ、お前が作ったんだな」
私はただ頷きました。
すると父は、ポケットからくしゃくしゃになった新聞の切り抜きを出して、
「職場の人に自慢したんだ。これ、うちの娘がやったってな」
一瞬、言葉が出ませんでした。胸の奥が熱くなり、涙がこぼれそうになりました。

父の背中が教えてくれたこと

あの頃、父はただ心配していただけだったのだと思います。
父は若くして家計を支え、夢よりも現実の安定を最優先せざるを得なかった人でした。
その現実の厳しさを知っているからこそ、夢を遠ざけるような言葉しか言えなかった。
今なら、それが父なりの愛情だったと分かります。
その夜、私は父に言いました。
「お父さん、あのとき無理って言ってくれたから、私は強くなれたよ」
父は黙って頷き、照れくさそうに笑いました。
夢を叶えたのは私自身。
でも、あの厳しい父の存在がなければ、きっと途中で諦めていたと思います。
大人になってようやく、私は父の不器用な優しさに気づいたのです。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。