家族の中で誰が強くて、誰が弱いのか。子どもの頃の印象や役割のまま、大人になっても相手を決め付けてしまっていませんか? 改めて話を聞いてみると、実は思わぬ事実が明らかになることもあります。今回は、筆者の友人の体験談をご紹介します。
見えない場所で流された涙
「いい歳して拗ねるなんて」と憤りながら、私は父の服を畳み始めました。
なんで全部私に押し付けるの……と悔しさが込み上げます。
しかし数時間後、静かに部屋から出てきた兄を見て、私は言葉を失いました。
兄の目は真っ赤に腫れ、何度も涙を拭ったあとが残っていたのです。
「本当は、父さんのものを見ると、もういない現実を突きつけられる気がして……怖かったんだ」
初めて聞く、兄の弱々しい声でした。
「待つこと」も大切な支え方
その瞬間、私はハッとしました。
兄だって父を失ったばかり。
悲しくないわけがありません。
兄は泣いていなかったのではなく、泣いているところを必死に隠していただけでした。
翌日、私が「遺品整理はもう少し心が落ち着いてからにしようか」と伝えると、兄は「うん」と静かに頷いてくれました。
人は見えている部分だけでは判断できません。
強く明るく振る舞う人ほど、深い痛みを抱えていることもあります。
急かさず、ただ待つことも、家族を支える形のひとつだと知りました。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。