「資格さえあれば、何か起こったときにも生きていける」という母の教えを守り、看護師になった筆者の友人。でも、結婚・出産を経て長いブランクが空いてしまいました。しかし、ある日の診察室で「あること」に気づいて……?

最新知識についていけない日々

初めはやはり、機械や薬剤の名前一つとっても”浦島太郎”状態。最新の医療知識をアップデートしようと必死に勉強するものの、現場での咄嗟の動きには引け目を感じる毎日でした。

しかし、働き始めて数か月経ったころ、ふと気づいたことがあったのです。

それは、「子どもを育て、親としての目線や悩みも実体験としてわかるようになった今の私だからこそ、寄り添える場面がある」ことでした。

例えば、予防接種に来た子どもが泣き叫んだとき。

かつての私は、安全に、そして確実に業務を遂行することに精一杯で、余裕がなかったかもしれません。

しかし今は、注射を嫌がる子の不安な気持ちが手に取るようにわかる。親御さんの「早く終わらせたい」という焦りも理解できる。

そこで私は、子どもの目線に合わせ、「ママが隣にいるから大丈夫だよ」と声をかけ、注射が終わった後は、「がんばったね」と心から褒めることができるようになりました。

次第に、親御さんから「親の気持ちをわかってくれる」と信頼を寄せられるようになったのです。

人生を支える、二つの柱

ブランクで失った医療知識は、一歩ずつ学び直す日々の積み重ねで補っていけます。

それ以上に、子育てで培った「相手に寄り添う共感力」と「安心感を与える人間力」こそが、今の私を支える本当の武器なのだと気づきました。

母の言った「何かあったときに自分を助けてくれる資格」は、確かに再就職という一歩を後押しし、私の生活を支える土台になってくれました。 そして、ブランクだと思っていた時間の中で育んだ「人間としての厚み」は、今の私の仕事に自信と誇りを与えてくれています。

実務を支える「資格」と、心を支える「経験」。そのどちらもが、私の人生には欠かせない大切な宝物です。それからの私はブランクを引け目に感じるのをやめ、これまでの歩みすべてを力に変えて、胸を張って患者さんと向き合うようになったのです。

【体験者:40代・女性看護師、回答時期:2025年11月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Yuki Unagi
フリーペーパーの編集として約10年活躍。出産を機に退職した後、子どもの手が離れたのをきっかけに、在宅webライターとして活動をスタート。自分自身の体験や友人知人へのインタビューを行い、大人の女性向けサイトを中心に、得意とする家族関係のコラムを執筆している。