筆者の話です。
12月になると、わが家ではパンフレットを囲んで「買うおせち」を選びます。
台所に立ち続けていた年末は過去のものになったけれど、母の黒豆だけは今も変わらず年の終わりを知らせてくれます。
形を変えても、受け継がれるぬくもりがそこにあります。

黒豆だけは母の鍋から生まれる

それでも、黒豆だけは母の手で煮ます。
前日の夜から豆を水に浸し、翌朝、鍋に火を入れる。
「ここだけは譲れないの」と微笑みながら、鍋の音を確かめる母の姿がありました。
買うことを選んだからこそ、手作りを一つ残す意味が見えてきたように思います。
その姿を見ていると、変わっていくことと、守り続けることのどちらも大切なのだと気づかされました。

変わる時間と残るぬくもり 

元日の朝、重箱のふたを開けると、選んだおせちと母の黒豆が並んでいました。
つややかな豆を口に運ぶと、やわらかな甘みと一緒に、あの年末の台所の記憶がよみがえります。

便利になっても、効率的になっても、家族の味はこうして受け継がれていく。
変わることを受け入れながらも、変わらないぬくもりを大切に──
黒豆の香りに包まれながら、静かに新しい年を迎えました。

【体験者:50代女性・筆者、回答時期:2025年11月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。