筆者が体調不良で寝込んでいたある日、息子が見せた意外な優しさ。言葉少なく、不器用だけどまっすぐな気持ちが伝わった瞬間でした。息子が大人になった今でも、思い出すたびに胸が温かくなります。

思いがけない一言

しばらくして、再びドアが開く音がしました。
「オカン、メシ……」と息子の声がします。
「カップ麺でも食べといて」と返すと、
「じゃなくて、オカンのメシ、作ったから」と言うのです。

その言葉に思わず布団から飛び起きました。「え? まさか」と信じられない気持ちでリビングへ向かうと、コンロの上に湯気の立つ鍋。
中には、やさしい香りの温かい雑炊ができあがっていました。
我が家では、誰かが体調を崩したときの“定番”が『雑炊』なのです。

ぶっきらぼうな優しさ

「オレが作ったから、食えよ」息子はそう言って、照れくさそうに部屋へ戻っていきました。
その背中を見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなり、涙が出てきました。

きっと、言葉にしないだけで、心配してくれていたのでしょう。
不器用だけど、真っ直ぐな優しさ。その「ぶっきらぼうな一言」に、息子の成長と愛情を感じました。

優しさは、言葉よりも温度で伝わる

雑炊を食べ終える頃には、不思議と頭痛もすっかり治っていました。
きっと体よりも、心があたたまったからかもしれません。

思春期の息子は、言葉ではうまく表せない。でも、行動でちゃんと気持ちを伝えようとしていたのだと思います。

今ではすっかり大人になった息子ですが、あのときの一杯が、今でも私の中で“世界一あたたかい雑炊”として輝いています。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年11月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒヤリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:大下ユウ
歯科衛生士として長年活躍後、一般事務、そして子育てを経て再び歯科衛生士に復帰。その後、自身の経験を活かし、対人関係の仕事とは真逆の在宅ワークであるWebライターに挑戦。現在は、歯科・医療関係、占い、子育て、料理といった幅広いジャンルで、自身の経験や家族・友人へのヒアリングを通して、読者の心に響く記事を執筆中。