筆者の話です。
コールセンター勤務時代、新人がたまたまハードクレーム(強い苦情)を受けてしまいました。
対応中に涙する彼女を前に、私は「交代の仕方さえ教えていなかった」と気づかされたのです。

新人が「運悪く」当たった電話

その日はいつもより問い合わせ件数が多く、着信ランプが次々と点灯していました。
そんな中、新人の女性が受けたのは運悪く「ハードクレーム」──怒りの収まらないお客さまからの電話でした。
必死に対応しようとする彼女の声が隣席まで聞こえてきて、私もモニターを見ながら様子を伺っていました。

震える声、あふれる涙

通話を聞き始めると、どんどん怒気を含んで荒くなるお客様の声。
それと比例して
「はい……申し訳ございません」
彼女の声は次第に震え、顔色も青ざめていきました。

チャットで「交代しよう」とメッセージを送るも、操作に手が回らず反応がありません。
泣き出しそうな様子に、私は席を立って彼女の背後に回り、そっと背中に手を添えて、ヘッドセットを受け取りました。

「交代」を教えていなかった落とし穴

「お電話代わりました。私が対応させていただきます」
対応を交代し、なんとかご納得いただいて通話を終えたあと、彼女はぽつりと「助けてほしかったけど、どう言えばいいかわからなかった」と言いました。
その言葉に、私はハッとしたのです。

研修では「謝り方」や「言い回し」を繰り返し練習してきたのに「クレームの際の交代の仕方」までは教えていませんでした。

「困った時は声をかけてね」と伝えていたものの、実際には「いつ、どんな風に伝えれば交代できるのか」。その具体的な方法が抜け落ちていたのです。

マニュアルを超えた「支え方」を学んだ日

あの時、涙を流した彼女も今では頼れる先輩になりました。
彼女の姿を見るたびに「伝えること」の大切さを思い出します。

それ以来、私は研修で「困った時の合図」や「交代の方法」も伝えるようになりました。
あの日の涙は、職場にとって大切な学びを残してくれたのです。
マニュアルを超えた「人の支え方」を考えさせられた出来事でした。

【体験者:50代女性・筆者、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。