子ども心に抱いたのは、父への怒り
両親が離婚したのは、私が小学5年生のときです。
私は子ども心に、「父が悪い」と思い込んでいました。
母と2人で暮らす日々は不自由ではなかったけれど、どうして父はいないのか、母はどんな気持ちなのか……答えのない寂しさと怒りを抱えていたのを覚えています。
子どもだった私は、自分の感情をうまく言葉に出来ず、ただ父を「悪者」にしてしまっていたのです。
大人になって気づいたこと
母は私の前で父を悪く言ったことはなく、離婚後は「お父さんも頑張ってるのよ」と穏やかに話してくれました。
けれど、当時の私はその言葉の意味を受け取れず、父への不満だけが膨らんでいました。
最近になってようやく、父が父親としての義務をきちんと果たしてくれていたことが、決して当たり前ではなかったのだと気づきました。
世の中には養育費すら支払わない親もいると知り、改めて父の誠実さに胸を打たれたのです。
父は、私が就職するまで養育費をきちんと払い、生活や進学の援助も欠かしませんでした。
もしかしたら、父も辛い思いをしていたのかもしれない……そんな風に、少しずつ父への見方が変わっていきました。
離婚は苦渋の決断だった
先日、久しぶりに父と会ったとき、父が「お母さんも大変だっただろうな。本当に苦労をかけた」と静かに言った瞬間、私はハッとしました。
両親の離婚は、お互いの幸せや生活を守るための、苦渋の選択だったのだと、やっと理解できたのです。
母が父を責めなかったのも、ただ私のためだけでなく、自分自身の人生を前向きに生きるための、彼女なりの強さだったのだろうと思いました。
両親への心からの「ありがとう」
今は、もやもやしていた気持ちがやっとなくなり、両親に心からありがとうと言いたい気持ちでいっぱいです。
もちろん、離婚の理由はさまざまです。
私のようなケースは稀なのかもしれません。
でも今、自分も結婚して子どもを育てながら大人の視点で振り返ると、あの離婚の選択があったからこそ、私は安心できる環境で育ち、母の強さや父の誠実さに気づくことができたと思えます。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。