小さく芽生えたライバル心
初孫が生まれてから、私は毎日幸せを感じていました。
ただ、その一方で、心の奥に「小さなライバル心」が芽生えていたのも確かです。
もちろん、孫にとって母親である嫁が一番なのは、頭では分かっていました。
それでも心の奥底には、「もっと私にも、ママに接するように懐いてほしい」という気持ちがあったのだと思います。
「私が作ったおやつより、ママが作ったおやつの方が美味しいって言うのね」
「ママに抱っこしてもらうと、あんなに嬉しそうな顔をするのに」
……なんて、本当にくだらないことが、いちいち気になってしまっていました。
自己嫌悪のループ
それでも嫁はいつも穏やかで優しく、私が孫に何かしてあげると必ず「お義母さん、ありがとうございます」と感謝の言葉を口にしてくれました。
その度に私は、罪悪感と自己嫌悪のループに陥っていました。
嫁の優しさが、かえって自分の心の狭さを際立たせるようで、居心地が悪かったのです。
このままではいけないと分かっていても、モヤモヤした感情からなかなか抜け出せずにいました。
孫がくれた「魔法の言葉」
そんなある日の夕食時のことです。
隣に座っていた孫が突然、私にこう言いました。
「ばあばは、特別!」
一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。
「え? どういうこと?」と聞き返すと、孫はニコニコしながら続けてくれました。
「ママも優しいし、大好き。でもばあばは、僕がママに言えないこととか、秘密の話も聞いてくれるから、特別なの!」
その言葉を聞いた瞬間、私の心の中にあった、嫁への小さなライバル心や嫉妬の感情が、すーっと消えていくのを感じました。
私にしかできない役割
その一言には、孫なりの愛情と信頼が込められていました。
私には私にしかできない役割があることを、孫の純粋な言葉が教えてくれたのです。
嫁は嫁で、母親としてしっかり愛情を注いでいる。
そして私は、祖母として、孫に別の形の愛情を注げばいいのだと気づきました。
たとえば、ちょっとした秘密を共有したり、甘やかしたり、人生の先輩として話を聞いてあげたり。
嫁と競う必要なんて、全くなかったんだと、自分の視野の狭さに反省しました。
孫の一言で心が軽くなり、私も「特別」なばあばとして、これからも孫を温かく見守っていきたいと思っています。
【体験者:60代・女性主婦、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。