どれだけ親しい相手でも、心がすれ違って仲違いをする瞬間は訪れます。そんなとき、周囲の言葉に振り回されてしまうこともあるはずです。今回は、筆者の友人が体験したエピソードをご紹介します。

親友と大喧嘩

社会人になったばかりの頃、私は初めて「親友との絶交」を経験しました。

小学校からの付き合いで、どんなことも分かち合ってきた──私にとってかけがえのない存在の親友。
それなのに、些細な誤解と意地の張り合いから険悪なムードになり、お互い引くに引けないまま、あっという間に溝が深まってしまったのです。

怒りと悲しみで頭がいっぱいだった私は、「もう一生会わない」と心に決め、彼女からの連絡をすべて無視しました。

周囲の声にも反発して……

そんな私を心配して、周りの友人たちは口々に「早く仲直りしなよ」「あんなに仲良かったんだから、もったいないよ!」「意地張ってないで、謝りに行きなよ」と声をかけてくれました。

みんな私たちのことを思って言ってくれているのは分かっていましたが、その時の私は「私の気持ちなんて分からないくせに」と心を閉ざしていました。

素直に受け入れられず、ふさぎ込んでばかりいる私の傍にただ黙っていてくれたのが母でした。

母は無理に励ますことも、意見を押し付けることもなく、いつもと同じように接してくれました。

母の一言に、心動かされ

数日経って、少しだけ冷静になった頃。
リビングでため息をついている私に、母がそっと声をかけてきました。

「……本当に、それで後悔しない?」

たったそれだけ。
それ以上の言葉は何もありませんでした。

でも、その一言が私の心に深く突き刺さったのです。

その時の私は、親友への怒りで「後悔なんてしない!」と即答するような状態でしたが、心の奥底では、もう一生会えないかもしれないという寂しさが渦巻いていたのも事実でした。

母は、私の複雑な気持ちをすべて見抜いていたのだと思います。

自分の気持ちと向き合う勇気

母の言葉を聞いてから、私は親友との関係を改めて冷静に見つめ直しました。

本当に、このまま終わってしまっていいのか?
何十年と続くと思っていた友情を、この程度のことで手放してしまっていいのか?

しばらく悩んだ末、私は勇気を出して親友に連絡を取り、素直に本音を伝えました。
すると、彼女もまた、私と同じように悩んでいました。それを知って、お互いに謝り、仲直りすることができたのです。

もし母があの一言を言ってくれなかったら、私は意地を張り続け、大切な親友を失っていたかもしれません。

今でも何かに迷ったときは、母のあの言葉を思い出します。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。