憧れの若女将ママ
直子さんの息子が通う小学校に、一際目を引くママがいました。
老舗和装問屋の“若女将”で、身だしなみはいつもきちんと。
上質なバッグをさりげなく持ちこなす姿に、つい見惚れてしまったそうです。
そんな憧れのママ友から
「今度うちに遊びにおいでよ」
と声をかけてもらい、息子が初めてひとりでお邪魔することに。
はじめてのお宅訪問で
夕方、いつもの帰宅時間に電話が鳴りました。
「ママ、タツキ(仮名)んちでカレー食べていい? タツキのママ(若女将)が食べていきなって」
「せっかくだから夕飯もどうぞ」と誘ってもらい、直子さんも手土産を持って、19時半に迎えに行くことになりました。
門をくぐるとき、直子さんはすこし背筋を伸ばしたそうです。
「手土産、これでよかったよね」
憧れのママ友の暮らしを見られる緊張と、楽しみが入り混じっていたのです。
“完璧”の裏側にある正直な暮らし
ですが玄関先に現れたのは、想像していた“若女将”とはまるで違う姿のママ友でした。
お団子頭にヘアバンド、くたっとしたスウェット姿に眼鏡。
思わず直子さんは驚いてしまいました。
「びっくりした? こっちがホントの私なの」
そう笑った声に、空気がふわっと和らぎました。
「ブランドバッグ、いつも素敵だったから驚いちゃって」
そう伝えると、ママ友はぽつりと打ち明けてくれました。
和装や小物はお客さま向けの“商売道具”、 和装離れもあって家業は決して楽じゃない。
それでも商売だからと、サブスクでブランド品を借りながら“若女将”を演じていたのだと。
「着物もね、義母に着せられてるだけなのよ」
どこか照れくさそうに笑っていました。
憧れから親しみへ
それ以来、直子さんはママ友を“憧れの人”ではなく、“親友”として見るようになりました。
見た目や肩書きにとらわれていたのは、自分のほうだったのかもしれません。
「タツキのママって『お風呂も入っていけばいいのに』とか『今度お泊りにおいでよ~』ってタツキと同じこと言うんだよ」
息子が何気なく話していたそのひと言に、直子さんは思わずクスッと笑ってしまったそうです。
どこにでもいる“ふつうのお母さん”と同じなんだ。
そんな人間味にグーンと親近感が湧いて、 それ以来、憧れだったママ友が一番の親友になったそうです。
【体験者:40代・女性パート勤務、回答時期:2024年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。