厳しすぎたテレビ制限
「テレビは一日30分!」
小学生の裕子さんにとって、それは毎日のルールでした。
アニメの続きを見たくても、
「目が悪くなる」
「勉強しなさい」
友達と話が合わず、寂しい思いをしたこともありました。
「なんでうちだけこんなに厳しいの?」
と、何度も反発したそうです。
それでも母の方針は変わらず、テレビはいつも途中で切られていました。
今度は母が夢中に
それから何十年。
時代は令和。母は70代になり、どっぷりYouTubeにハマっています。
料理動画にドラマの切り抜き、芸能人のルーティン、ペットの癒し動画まで。
次から次へと関連動画を追いかけ、気づけば朝から晩まで画面の前に座りっぱなし。
その楽しそうな様子に
「こんなにハマるものなんだ」
と裕子さんも感心しましたが、
「お母さん、たまには外に出ようよ」
「買い物付き合ってよ」
と誘っても
「今、いいとこだから」
と断られることも増えてしまったのです。
立場が逆転した瞬間
「そんなに画面ばかり見てたら、体に良くないよ」
そう言った瞬間、母は強い口調で返してきました。
「私の自由でしょ! あんたに言われたくない」
裕子さんは驚きましたが、夢中になる気持ちも少しわかるのです。
自分もかつて、ドラマの続きがどうしても見たくて泣いた日がありました。
「お母さん、昔の私みたいだよ。テレビばっかり見てるって、怒ってたよね」
母はハッとしたような表情で黙り込みました。
しばらくして
「そうね……あんたの気持ちが、やっと分かったわ。ごめんね」と、ぽつり。
わかり合えたそのあとに
その日から、母は少しずつYouTubeの視聴時間を調整するようになりました。
「今日は午前中だけにしようかな」
と、自分でルールを決め始めたのです。
週に何度かは近所のスーパーやカフェへ、裕子さんと一緒に出かけるようにもなりました。
「いろいろ見られるって新しいものに出会えるから、それが楽しいのよ」
「若い人がハマるのも分かるわ」
画面越しに広がる世界に夢中になるのは、年齢に関係ないのかもしれません。
情報も笑いも感動も、今は世代を超えて手軽に得られる時代。
けれどやっぱり、誰かと一緒に味わう時間こそが、本当の“心の栄養”になるのかもしれませんね。
【体験者:50代・女性会社員、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。