今回は、筆者の知人・佐智子さん(仮名)が経験した、善意の押し付けが招いた家族の亀裂と、数年越しの和解の物語です。

良かれと思った手伝い

10年ぶりの孫が誕生し、佐智子さんはうれしくてたまりませんでした。

週に3回、息子夫婦の家に通い、洗濯や料理、育児の手伝いを張り切って続けていたそうです。

「ありがとう」と言われるものと信じて疑わず、やりがいさえ感じていました。

ところがある日、嫁から一通のLINEが届きます。

「申し訳ありませんが、しばらく来ないでください」

理由の説明もなく突然の“出禁”通告に、佐智子さんは戸惑いと怒りを覚えました。

息子に訴えると、

「ちょっとやりすぎだったんじゃない?」とまで言われ、何のフォローもなく絶句。

続いた気まずい空白

それ以降、嫁とは一切連絡を取らなくなりました。

年始の挨拶で顔を合わせるだけの、ぎこちない関係が何年も続いたのです。

孫も成長し、以前のように遊びに来ることもなくなっていきます。

「恩知らずにもほどがあるわよね」

そう友人にこぼすと、みな口を揃えて同情してくれました。

自分は一生懸命やってきた。

感謝どころか距離を置かれるなんて。

その思いが、心に澱のように残り続けていたそうです。

孫の言葉で気づいたこと

ある日、中学生になった孫が一人で佐智子さんの家を訪ねてきました。

昔のアルバムをめくりながら、ふと口にしたのです。

「あの頃ママ、産後うつだったんだよ」

佐智子さんは、思わず息をのみました。

「ばあばが全部やっちゃって、自信なくしちゃったんだって」

良かれと思ってした行動が、逆に嫁を追い込んでいた——

そんな事実に初めて触れた瞬間でした。

届いた短い返信

孫が帰ったあと、佐智子さんはスマホを手に取りました。

「知らなかったとはいえ、辛い思いをさせてしまってごめんなさい」

そう打ち込んで、震える手で送信。

数分後、「ありがとうございます」とだけ返事が届きました。

たった一行のメッセージ。

それでも、心のどこかが少しほどけたように感じたそうです。

“助けていた”つもりが、“奪っていた”のかもしれない。

今は、そっと見守るところから、もう一度関係を築けたらと思っているそうです。

【体験者:60代・主婦、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。