筆者が子供の頃、母の留守中、普段は台所に立たない父が突然「おにぎりを作る」と言い出しました。半信半疑で見守る私たち兄妹でしたが予想外の展開が待っていました。家事とは無縁の頑固オヤジが作るおにぎりの味は━━?
見事すぎた“父の初おにぎり”
炊きたてのごはんを前に、父は黙々と作業を始めました。
料理初心者とは思えないほど集中していて、ひとつひとつ丁寧に握っていきます。
できあがったおにぎりを見て、私と兄は言葉を失いました。
━━まるで食品サンプル。
すべてが均一な大きさ、完璧な三角形。
まるで売り物のように美しく並んでいたのです。
「お父さん……すごい!」
恐る恐る食べてみると、塩加減も絶妙。
ふんわり握られたごはんは、口の中でほろりとほどけました。
やればできる
あの日食べたおにぎりの味は、今でもはっきりと覚えています。
亭主関白だった父が、たった一度だけキッチンに立って作ってくれた昼食。
それは、私にとって「父の優しさを初めて感じた瞬間」でした。
几帳面な性格の父は、きっとお料理もできたのでしょう。
その真意は今となっては分かりません。
でも、あの完璧すぎるおにぎりには、不器用な愛情がぎゅっと詰まっていました。
【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒヤリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:大下ユウ
歯科衛生士として長年活躍後、一般事務、そして子育てを経て再び歯科衛生士に復帰。その後、自身の経験を活かし、対人関係の仕事とは真逆の在宅ワークであるWebライターに挑戦。現在は、歯科・医療関係、占い、子育て、料理といった幅広いジャンルで、自身の経験や家族・友人へのヒアリングを通して、読者の心に響く記事を執筆中。