ある日、筆者が100円ショップを訪れたときのこと。そこはセルフレジのみの店舗でした。
ふと前の男性客が「わからん、やって!」と怒鳴り、店内がピリッと凍りついたのです。
思わず息をのんだその瞬間、ベテラン店員さんの神対応が始まりました。

怒鳴る男性客、凍りつく店内

セルフレジしかない100円ショップ。
前にいた男性客が、商品を入れたカゴをレジ台に“ガシャッ”と乱暴に置きました。
「わからん、やって!」と店員に怒鳴るような声。
その一言で、ざわついていた店内が一気に静まり返りました。
後ろに並ぶ客たちの視線も集まり、重い空気が流れます。

若い女性店員が困ったように「こちらセルフレジでして……」と答えると、
「わからん! やって、て言うとるやろ!」とさらに強い口調。
その場にいた誰もが気まずい空気を感じていました。

現れたベテラン店員

すると、そこへ年配の女性店員が静かに登場しました。
その方はにっこりと笑いながら、まったく動じる様子もなく男性に話しかけました。

「さあ、お客様、ここを押して下さいね。はい、スタートします」
「レジ袋はご利用ですか? では、ここを押して」
「バーコードはここですよ。かざしてください」

まるで優しいナビゲーターのように、テンポよく丁寧に声をかけていきます。
男性客はぶつぶつ言いながらも、その誘導に従って操作を続けていきました。
次第に怒気も和らぎ、気づけばスムーズに会計が進んでいます。

空気を変えた一言

会計が終わると、女性店員は笑顔のまま、
「お買い上げありがとうございました!」と大きな声で明るくお見送り。

男性客も、おとなしく帰って行きました。その瞬間、張りつめていた空気がふっとゆるみました。
他の客たちからも、どこか安堵したような表情が見えました。
怒りをぶつける男性に対しても、丁寧に、堂々と、そしてユーモアを交えた対応。
その姿勢はまさに“プロの神対応”でした。

怒りを笑顔で包み込む力

イライラをぶつけるより、笑顔で包み込む方が何倍も強い。
そんなことを教えられた気がします。

あの女性店員の笑顔には、経験と人への思いやりがにじんでいました。
人と接する仕事をするうえで一番大切なのは、「気持ちよく終わらせる力」なのかもしれません。
あの日の100円ショップで学んだのは、接客のプロとしての誇りと、人を穏やかにする優しさでした。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒヤリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:大下ユウ
歯科衛生士として長年活躍後、一般事務、そして子育てを経て再び歯科衛生士に復帰。その後、自身の経験を活かし、対人関係の仕事とは真逆の在宅ワークであるWebライターに挑戦。現在は、歯科・医療関係、占い、子育て、料理といった幅広いジャンルで、自身の経験や家族・友人へのヒアリングを通して、読者の心に響く記事を執筆中。