人の思いやりは、周りの人も温かい気持ちにさせてくれます。全盲のマッサージ師さんに自然に声をかけ、肩を貸して歩くステキな中学生。筆者が通勤途中に見た心温まるエピソードをお届けします。

通勤で出会うマッサージ師Kさん

私が介護施設に勤めていた頃、同じ施設で全盲のマッサージ師Kさんが働いていました。
Kさんはバス停から白杖をついて徒歩で施設に向かいます。
通勤途中に出会うと、「肩を貸してくれる?」と声をかけられ、一緒に歩くこともありました。

中学生の登場

ある日の通勤時、少し先を歩いているKさんを見かけました。追いかけて声をかけようとしたその時、私の横を2人の中学生が走り抜け、Kさんに声をかけたのです。
「何かお手伝いしましょうか?」
「荷物持ちますよ!」
突然の申し出にも、Kさんはにっこり笑って答えました。
「ありがとう、じゃあ肩を貸してくれる?」

自然なやり取り

1人の中学生はKさんの肩を支えもう1人は荷物を持ちました。
後ろを歩きながら見ていた私は、その自然さに驚きました。
会話が弾んで、笑い声が聞こえてきます。Kさんも楽しそう。

Kさんが2人に名前を聞くと、中学生の1人が「いえいえ、名乗るほどの者では……」と、ユーモアたっぷりに答えたので、後ろで聞いていた私は思わず吹き出してしまいました。
ほんの数分のことですが、温かい空気がそこに流れていました。

思いやりの連鎖

大人になると、こんな時、「手伝ったほうがいいのかな」「断られたらどうしよう」とためらってしまうことがあります。
しかし、中学生たちは迷わず声をかけ、Kさんと笑顔を交わしながら歩いていく姿に、私は胸がいっぱいになりました。

「誰かの役に立ちたい」という気持ちは、大人が教えるのではなく、こうして自然に芽生え、育っていくのかもしれません。
思いやりは小さな場面で連鎖していくもの。私はその日、中学生たちから人の優しさの力を教わった気がしました。

【体験者:50代 筆者 回答時期:2025年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒヤリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:大下ユウ
歯科衛生士として長年活躍後、一般事務、そして子育てを経て再び歯科衛生士に復帰。その後、自身の経験を活かし、対人関係の仕事とは真逆の在宅ワークであるWebライターに挑戦。現在は、歯科・医療関係、占い、子育て、料理といった幅広いジャンルで、自身の経験や家族・友人へのヒアリングを通して、読者の心に響く記事を執筆中。