これは筆者の友人から聞いたお話です。彼女は朝から晩まで塾に通い詰め、帰宅は夜遅く。食事も睡眠も削って「今が勝負」と自分を追い込み続けていました。そんな彼女を支えていたのは、何気ない母の声かけ。けれどそのときは、素直に受け入れることができなかったのです。
受験勉強にすべてをかけた高校3年の夏
高校3年の夏、私は大学受験に向けて朝から晩まで塾に通い詰めていました。帰宅はいつも23時を過ぎ、睡眠も食事もおろそかに。「今しかない」と自分を追い込むように机に向かい続けていました。そんな私に、母は毎晩のように「ちゃんと食べなさい」「少し休んだら?」と声をかけてくれましたが、そのときの私は「大丈夫だから」と聞く耳を持ちませんでした。
母への反発とすれ違い
ある夜、母が「無理しないでね」と言った一言に苛立ちが募り、「お母さんに私の努力なんて分かるわけない!」と強い口調で言い返してしまったのです。母は寂しそうな顔を一瞬だけ見せ、何も言わずに部屋を出ていきました。その光景が頭に焼きついて離れませんでした。
合格と同時に訪れた試練
努力の末に第一志望の大学に合格した喜びも束の間。入学後すぐに過労とストレスから体調を崩し、半年間休学することに。ベッドに寝込む私の横で、おかゆを運んでくれたのは、ほかでもない母でした。そのとき初めて「母の言葉は勉強をやめろ、という意味じゃなかったんだ」と気づきました。「頑張ってるのは分かってる。でもそれ以上に体が心配だった」という母の気持ちが、ようやく理解できたのです。
今、母と同じ立場に立って
時が流れ、私は今4歳の息子を育てています。「転ばないようにね」「早く寝ようね」「ちゃんと食べようね」と、口を開けばそんな言葉ばかり。ふと気づくと、あの頃の母と同じことをしている自分がいます。そして、きっと今の息子にとっては煩わしい言葉に聞こえているだろうと感じます。
届いていないようで、心には残る
子どもが小さい今だからこそ、親の愛情が「届いていない」と思う瞬間があります。でも実際は、届いていないように見えても心の奥に残っているのかもしれません。私がそうであったように。いつか息子も、どこかで思い出してくれたら――それだけで十分なのだと、今は思えるようになりました。
【体験者:40代・女性パート主婦、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:北田怜子
経理事務・営業事務・百貨店販売などを経て、現在はWEBライターとして活動中。出産をきっかけに「家事や育児と両立しながら、自宅でできる仕事を」と考え、ライターの道へ。自身の経験を活かしながら幅広く情報収集を行い、リアルで共感を呼ぶ記事執筆を心がけている。子育て・恋愛・美容を中心に、女性の毎日に寄り添う記事を多数執筆。複数のメディアや自身のSNSでも積極的に情報を発信している。