古い体質が残る職場の日常
私が勤める会社は、よく言えば「古き良き」、悪く言えば「昭和な体質」が色濃く残る職場です。
雑用は当然女性の仕事。意見を述べれば「女のくせに」と軽くあしらわれることもしばしば。
そんな環境に、私はひそかにモヤモヤした気持ちを抱えていました。
ある日、上司から重要な取引先との会食に同行するよう命じられましたが、その時も「余計な口出しはするな」「黙って聞いていればいいから」と、始まる前から釘を刺されてしまいました。
社長の問いかけ
会食の席に着くと、取引先のA社長は業界で名の知れたやり手の方で、聡明な雰囲気をまとっていました。
私は指示通りひたすらお酌に徹していましたが、上司が当たり障りのない話をしているのを聞きながら、心の中では「もっと建設的な話がしたいのに」という思いが募ります。
そんな私を見かねてか、A社長が突然、
「今の話を聞いて、何か感じることがありましたか? 特に新規事業について、女性の視点からご意見があれば、ぜひ聞かせていただきたいのですが」
と、私に話を振ってくださったのです。
上司は、明らかに焦った表情で私を睨んでいました。
女性目線の提案が、場を動かす!
社長の真摯な眼差しに、私はここで黙っていては失礼だと感じました。
それに、普段から女性の声が届かないことに不満を抱いていた私にとっては絶好のチャンス。
意を決して、A社長が話していた新規事業について、女性ユーザーの視点から具体的な改善点や、アプローチ方法をいくつか提案しました。
日頃から考えていたことだったので、淀みなく言葉が出てきます。
私の話を聞き終えたA社長は満面の笑みを浮かべ、
「素晴らしい! まさか、そこまで深く考えていらっしゃるとは。まさに私たちが求めている視点です」
と、感服してくださいました。
アップデートされる価値観
社長はさらに上司に向かって、
「これからの時代は、女性の視点や意見が非常に大切になってくると思っています。自ら意見を発信できる女性がいる会社と、積極的に取引していきたいと考えているんですよ」
とにこやかに話しました。
上司は慌てて「は、はい! それはもう……」としどろもどろに取り繕っていました。
この日以来、少しずつですが、上司の女性への対応が変わってきているように感じます。
会社の古い体質に小さな風穴を開けるきっかけになったのかもしれません。
「これからはもっと自信を持って、自分の意見を発信していこう」
そう決意させてくれた、忘れられない出来事でした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。