筆者の知人A子は、4歳と1歳の子を持つ共働きのママです。家計や子供の将来を思い、フルタイム勤務を選んだ彼女。しかし、ある朝の長女の一言で「本当に大切なこと」に気づかされたそうです。

家族のために選んだ働き方

下の子が1歳を迎えたころ、私は保育園に子供を預けて時短勤務で職場に復帰しました。

ある日のお迎え。知り合った保護者が話してくれたのです。

「うち、ピアノと水泳、英語の習い事をさせてるの」

「そうなの!」と驚いた瞬間、胸の奥がざわつきました。

──うちの子にはまだ習い事をさせていない。このままでいいのだろうか。もっと体験をさせてあげたほうが、この子のためになるのでは。

そんな思いに背中を押され、私はフルタイム勤務に切り替えました。収入が増えれば習い事をさせてあげられる、そう考えたのです。

長女の声を受け止められなかった日々

けれども現実は思うようにはいきませんでした。仕事を終えて急いで帰っても家事は山積み。朝は慌ただしく、夜は子供を寝かしつけながら自分も眠ってしまう毎日。それでも「子供のため」と言い聞かせて走りつづけていました。

そんなある日、長女がぬり絵を見せようと「ママ見て」と繰り返してきました。

私は疲れから「あとにして」と冷たく答えてしまったのです。

小さな声で「うん」と返す長女。

その寂しそうな顔に胸が痛んでも、私は忙しさに流されていました。

繰り返される「行きたくない」

やがて、長女が「保育園に行きたくない」と言うことが増えました。

そのたびに私は「遅れます」と職場に連絡。理解してくれる人が多い一方で、「子供を理由に休みが多い」と陰で言われているのを耳にしました。

申し訳なさと情けなさが積み重なり、私は精神的に追い込まれていったのです。

ある朝も、長女は泣き叫びながら「行きたくない」と訴えました。焦りと苛立ちの中で「誰のために働いていると思ってるの」と言いかけたその瞬間、長女が涙声で言ったのです。

長女の本心を聞いた気づき

「ママともっといっしょにいたいの」

その一言で心が崩れ、涙があふれました。長女が求めていたのは習い事でも新しい体験でもなく、私と過ごす時間だったのです。

心のどこかで「さみしい思いをさせている」と感じながらも、たくさんの体験をさせたい一心で、フルタイムで働くしかないと自分を追い立てていました。子供のためにと口にしながら、実は自分の安心のために働いていたのです。

今の長女にとって習い事より本当に大切なのは、私と一緒に過ごす時間と心のつながり。もちろん子供にさまざまな体験をさせたい気持ちは消えません。

けれども長女が「習い事やりたい」と思うその日までは、一緒に笑い、一緒に体験する時間を大切にしようと決めたのです。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での体験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。