旅行先で杖をつきながらスーツケースを運んでいた私は、階段を上がるのに苦戦していました。
そのとき、若い女性がスッと手を伸ばし、思いがけない助けをくれたのです。
旅行先の駅で思わぬ落とし穴
旅行好きな私は、膝が悪く、杖を使いながらも、これまでさまざまな土地を訪れてきました。
ところがある駅で電車を降りた際、誤ってエレベーターが近くにない改札に出てしまったのです。
地上へ続くのは長い階段だけ。
周囲は旅行客で混雑していて、皆せわしなく歩いていきます。
私は重いスーツケースを抱えたまま立ち尽くし、どうしようかと考え込んでしまいました。
重いスーツケースと膝への負担
回り道をすればエレベーターがある改札まで行けるようでしたが、距離があったため、階段を上がることを決意。
邪魔にならないよう階段の端に寄って一歩ずつ持ち上げ進みます。
けれど杖を使う身では、バランスを崩さないよう神経を張りつめなければならず、すぐに息が上がってしまいました。
見上げれば長い階段が続き、気力も体力も試されていくようで、立ち止まりそうになるほどだったのです。
差し伸べられた救いの手
そのとき、横からスッと手が伸びてきました。
「先にあげておきますね」そう言った若い女性が、私のスーツケースを軽々と持ち上げたのです。
「重いから大丈夫ですよ!」そう断る私に、にこりと微笑み「ゆっくり上がってきてくださいね」
と、颯爽と上がっていく彼女。
しかも自分の荷物まで抱えて、二つをリズムよく運んでいく姿に思わず見とれてしまいました。
私は手元が軽くなり、階段を上がる足取りもほんの少し軽やかになったのです。
伝えきれなかった感謝の言葉
牛歩ながら一歩ずつ進み、やがて私の視線の高さにスーツケースが見えた頃、彼女はまたにこりと笑い手を振り、そのまま去っていきました。
ようやく地上に上がり、階段の端に置かれた荷物を手に取った私。
「ありがとうございます」と慌てて声をかけたものの、すでに後ろ姿は小さく遠ざかっていました。
十分にお礼の気持ちを伝えきれなかったことが心残りです。
困っている人を前に、迷わず動ける姿が忘れられません。
あのときの優しさは今も胸に残っています。
【体験者:50代女性・筆者、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。