でもそれから数時間後、急に鳴ったインターホンが、胸を熱くする出来事の始まりになりました。
今回は筆者の友人から聞いた、息子の心温まるエピソードをご紹介します。
傘を貸した息子
平日の午後、冷たい雨が降っていた日のことです。
15時過ぎ、玄関が勢いよく開いた音に振り返ってびっくり。
息子がずぶ濡れで帰ってきたではありませんか!
小学5年生、普段から口数の少ないタイプの息子です。
「え、持っていった傘はどうしたの?」
と私が聞くと、
「貸してきた」
と一言だけ。
「誰に?」
と聞くも、私の問いかけを無視して、息子はタオルを持って風呂場に向かっていってしまいました。
それ以上は何も語らず、シャワーを浴びて、夕飯のときもいつも通り。
「優しいことしたね」
と言ってみたけれど、
「別に~」
と気のない返事。
私もそれ以上深掘りしないように話題を変えていたのですが……。
傘の行方
急に家のチャイムが鳴ったので出てみると、近所に住む年配の女性。
「うちの孫が帰り道で傘がなくて困っていたところに、息子さんが“貸してあげるよ”って声をかけてくれたようで」
「お名前聞いたって聞いて、お礼だけでも、と」
「わざわざ声をかけて助けてくれるなんてすごいですね。本当に助かりました」
成長
思わぬ言葉にとても驚きました。
ただ単に傘を貸した、のではなく“声をかけて助けてくれた”という表現が、胸にじんと響いたことを今でも覚えています。
息子に対し、つい口うるさく言ってしまうことが多かった私。
「靴揃えてって何度言えば分かるの!」
「ゲームばっかりじゃなくて、少しは勉強しなさい」
けれど見えないところで、ちゃんと息子は成長していたのです。
誰かに言われなくても、見返りを求めなくても、そのときにできる精一杯の優しさを見せていたのだと知りました。
誇らしい
「傘、戻ってきたよ」
と言うと、
「ふーん」
とだけ返した息子。
でもそのとき、彼の口元がほんの少し、ゆるんだ気がしました。
どうやら聞き耳を立てていたようで、褒められたことが嬉しかった様子。
子どもは、親の知らないところで、ちゃんと人として育っていると学んだ私。
そんな“静かな成長”を知ることができた、今でも忘れられない出来事です。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:一瀬あい
元作家志望の専業ライター。小説を志した際に行った女性への取材と執筆活動に魅せられ、現在は女性の人生訓に繋がる記事執筆を専門にする。特に女同士の友情やトラブル、嫁姑問題に関心があり、そのジャンルを中心にFTNでヒアリングと執筆を行う。