『優しい人だから』と信じた彼との同棲生活。
でも次第に見えてきたのは、思い描いていた“優しさ”とは違う一面でした。
迷い続けた女性の心を動かした母の言葉とは──。
今回は筆者の知人から聞いた、家族愛にあふれたエピソードをご紹介します。

母の反対

当時24歳のときの出来事です。

私は4歳年上の彼と同棲を決め、実家を出ることにしました。

彼は社交的で話も面白く、友達の間でも『優しそう』と好印象。

ただ、母だけには初対面で会った後、顔をしかめて反対されました。

「あの人、水や料理を運んでくれたあなたに対してお礼の1つも言わないのね」
「少しでもあなたがからかうと怖い顔しているし、やめた方がいいわ」

いざ同棲すると?

でも、私は『古い考えね』と思い、母に反発してしまいました。

「今日はちょっと機嫌悪かっただけだよ」
「いつもとっても尽くしてくれる優しい人だから」

そう心配する母を押し切り、半ば強引に実家を出ていったのです。

それから始まった同棲は最初のうちこそ、とても楽しいものでした。

でも数か月経つと、彼は変わってしまいました……。

私の服装に文句を言い始め、男友達と連絡を取ることも禁止され、実家に帰るのも嫌がる彼。

怒るとモノに当たり、大きな音を立てて罵られるようになり、私は黙り込むように。

そんななか実家に帰ったある日、母にそのことを愚痴りつつも私が
「別に、全部自分で選んだことだし」
と笑って言った瞬間でした。

母の愛

「もういい加減にしなさい!」

その怒鳴り声に、思わず固まった私。

「全部、自分のことを後回しにして、相手の顔色ばっかり見て」
「そうやって我慢させるために育てた覚えはない!」

声を震わせながら言った母の姿に涙が頬を伝いました。

『彼との付き合いは間違っていたのかもしれない』と頭にはよぎったものの、それでもまだ心が追いつかなかった私。

その日はそのまま無言で実家を後にしました。

ありがとう

でもそれからしばらくしたある夜、彼の怒鳴り声に震えながら、やっと別れる決心がついたのです。

別れ話では彼にごねられ大変でしたが、何とか関係を切った私。

事前に母に連絡していたこともあり実家に帰ると、母は何も言わず、部屋を温めて待っていてくれました。

母とのあのやりとりがなかったら、私は今も彼の“優しさ”という名の支配に縛られていたかもしれません。

あの一喝は、私にとって人生の“ブレーキ”だったと思います。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:一瀬あい
元作家志望の専業ライター。小説を志した際に行った女性への取材と執筆活動に魅せられ、現在は女性の人生訓に繋がる記事執筆を専門にする。特に女同士の友情やトラブル、嫁姑問題に関心があり、そのジャンルを中心にFTNでヒアリングと執筆を行う。