誰かを励ます時、あなたならどうしますか? 話を聞く、そっとそばにいる、何かプレゼントをする……など、人によって励まし方には違いがありますよね。今回は、筆者の知人が興味深いエピソードを聞かせてくれました。

まさかの事態に動揺

息子が会社から転勤を言い渡されたのは、半年ほど前のことです。事実上の左遷でした。

本社での栄転を夢見ていた息子の落胆は計り知れません。
結局、息子は転勤を受け入れずに自主退職を選び、転職先を探すことになりました。

順調に出世コースを歩んでいると思っていたのに、まさかこんな事態になるとは……。

息子はすっかり自信をなくして、転職活動にもなかなか前向きになれない様子。
そんな息子の姿に、私も胸が痛みました。

もっと優しくしてくれてもいいのに

しかし、それ以上に私の心をざわつかせたのは、息子の妻、A子さんの態度でした。

夫がこれほど落ち込んでいるのですから、妻として励まし、支えてあげるのが普通だと私は思っていました。
ところがA子さんは、「いつまで寝ているの」「感傷に浸っている暇ないでしょ」と、息子に突き放すような言葉ばかり浴びせるのです。

こんなに落ち込んでいるんだから、少し休ませてあげたらいいのに……。
私は、A子さんのことを「なんて冷酷な人なのだろう」とさえ思ってしまいました。

明かされた真意に絶句

A子さんのことを冷たく感じる日々が何日も続いたある日、ついに私は我慢できなくなり、「もう少し、息子に優しくしてあげられないかしら?」とA子さんに口出しをしてしまいました。

すると彼女は何も言わず、別室から分厚いファイルを持ってきたのです。
それを見た瞬間、私は息を呑みました。

そこには、業種や条件ごとにきれいに分類された求人情報がファイリングされ、息子の経歴を活かせる会社には印がつけられ、面接の傾向と対策まで丁寧に作られていたのです。

A子さんは、影で息子の転職活動を徹底的に準備し支えてくれていたのでした。

愛情の形はそれぞれ

「あの人はプライドが高いから、同情されるのが一番辛いんです。だから優しくして甘やかすより、少し強引にでも前を向けるようにした方が、本人のためにもいいと思って……」
そう語る彼女の目には、息子への深い愛情が確かに浮かんでいました。

私には冷たく見えたA子さんの言葉は、息子を突き放すためではなく、息子の誇りを守り、立ち直らせるためのものだったのです。愛情や優しさの表現は、受け取る側の状況や性格によって正反対に見えることがある、ということを痛感しました。

A子さんのサポートのおかげで、息子は以前より好待遇の職場に転職できました。

私よりもA子さんの方が、息子のことをよく理解している。
そう実感した私は、浅はかな考えで口出しした自分の価値観の押し付けを恥ずかしく思い、これからは息子夫婦を温かく見守ろうと心に誓いました。

【体験者:60代・女性主婦、回答時期:2025年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。