食べ物の恨みは一生とよく言われています。食欲は人間の3大欲求のひとつですから、食べ物を奪われた恨みは本能的に強く残るのかもしれませんね。今回は身近な人物に大好物を奪われ、食べ物の恨みを募らせることになった経験のある筆者の知人、Nさんのお話です。

実家からの贈り物

当時Nさんは第一子を出産したばかり。これから子育てを頑張らなければならないと思っていたところに、実家からある贈り物が届きました。

両親は遠く離れた場所に住んでおり、父親が体調を崩していることもあって、生まれたばかりの赤ちゃんを見に来ることもできません。

そのため両親は産後のNさんの体を気遣い、お祝いとして超高級和牛の薄切り肉をたくさん送ってくれたのでした。
「わあ、すごいお肉!」
実はNさんの実家はお肉が有名な地域で、送ってくれたお肉は地元でも一番有名なお店でした。
「どうやって食べようかな……」
お肉が大好きなNさんはウキウキしてお肉を冷蔵庫にしまいました。

「ねえ、おすすめの食べ方は焼きしゃぶらしいよ」
慣れない育児でしばらくバタバタしていましたが、夕食にお肉を食べようと、Nさんが旦那さんにお肉の食べ方を相談しながら冷蔵庫を開けました。
「え、お肉がない!」
ちゃんと冷蔵庫に入れておいたはずのお肉が、どこにもなくなっているのです。

「ああ、お肉ならうちの実家に持って行った」
旦那さんは驚いて固まっているNさんに、シレッとした顔で言いました。

お肉の恨み

「うちの実家でみんなで食べようと思ってさ。さっき持って行ったんだ。今母さんがしゃぶしゃぶの準備してるから行こう」
Nさんは大ショック。義実家は徒歩ですぐの場所にあり、関係性も悪くはありません。もともと義実家との食卓を共有することはありましたが、楽しみにしていたお肉を勝手に持っていかれたことに驚きを隠せませんでした。
「え……どうして勝手に持って行ったの。私に送られたものだよね?」
「みんなで食べたほうがうまいだろ、いいお肉なんだし」
「それはそうかもしれないけど、私に送られたお肉なんだよ? 誰とどうやって食べるかは私に決めさせてほしかった」
「なんだよ、食い意地張ってんな」
Nさんは旦那さんと軽い言い争いになりましたが、義実家からしゃぶしゃぶの用意ができたという電話で仕方なく義実家へ。

しかし義両親や同居をしている義兄夫婦、その子どもたちに気を遣って、Nさんは少ししかお肉を食べられませんでした。

誰のためのお肉だったのか

それからというもの、Nさんは実家からなにか食べ物が贈られてきたら、旦那さんが勝手に義実家に持って行かないよう、冷蔵庫に「持ち出し禁止」と紙を貼ることにしました。

「やっぱり食い意地張ってるな。こんなことしなくてもいいだろ」
見かねた旦那さんにそう言われたNさんは、きっぱりとこう言い返したのでした。

「うちの親が私を気遣って送ってくれたものなの。私が食べ方を決めて何が悪いのよ!」
Nさんは実家の母親がお肉と一緒に送ってきた手紙を見せました。

「産後の体力回復には牛肉を食べると良いそうです。赤ちゃんのためにも元気なママでいてね」
その一文を見て、旦那さんはあのお肉は産後のNさんに力をつけるために贈られたものだったとやっと気づいたのでした。
「ほんとに悪かった……産後の大変さを全然理解していなかった。これからはちゃんと相談する」
旦那さんは深く反省し、それから旦那さんが勝手に、Nさんに贈られた食べ物に触ることはなくなったそうです。

贈り物を無断で持ち出すのは、ちょっとデリカシーに欠ける行為ですよね。Nさん夫婦はこの一件をきっかけに、産後の大変さや、お互いの価値観について話し合って、理解を深めることができたそうです。

【体験者:30代・女性主婦、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。