オープン前に
Mさんは当時飲食店を経営していました。
小さなお店ですがセットメニューがお得なランチタイムは盛況で、お昼どきには外に数人の行列ができるほど。
味も良くてお値段がお手頃なこともあり、その地域では結構な人気店でした。
そんなある日、Mさんはいつものようにオープン前の仕込みをするために店に行きました。
ランチタイムは11時から営業していますが、Mさんはいつもオープンの2~3時間前に店に到着し、自動ドアのスイッチを切ったまま少し開けて空気の入れ替えをするのが毎日の習慣です。
そしてランチの仕込みをしていると、ランチタイムのパートさんが出勤してきて開店前の清掃をしてくれます。
そしてオープンの1時間前。厨房にいるMさんの耳に、パートさんの困ったような声が聞こえてきました。
「すみません、まだオープン前なんです」
早すぎるお客さま
「どうしたの?」
Mさんが厨房からホールに出ると、そこには清掃途中のパートさんと中年男性がいました。どうやら少し開けていたドアを開けて、お客さんが入ってきてしまったようです。
「オープンは11時なので、申し訳ありませんがまた後ほどいらしてください」
Mさんが「準備中」の看板を指さしてそう言うと、男性は顔をしかめて答えました。
「外で待つのは暑いから、ここで待たせて」
確かにその日は日差しの強い日でしたが、周りにはスーパーやコンビニ、本屋など時間のつぶせそうなお店もあります。まだ床やテーブルの清掃も途中であるため、Mさんは丁重にお断りして一旦出てもらうことに。
しかし30分後。
「そろそろいいだろ、入れてよ!」
そのお客さんはすぐに戻ってきてしまいました。しかも勝手に客席に座り、メニューを眺め始める始末。
「ほら、暑いからドア閉めて」
仕方なく早く清掃を済ませて大慌てで準備を進めたものの、結局注文を聞いたのはオープン10分前でした。
「結構待たせるわりには大したことないな」
食後にわざわざ厨房を覗いてまでそう言われたため、Mさんにとって苦い思い出になったそうです。
自分が早く来すぎたのに、待たされたと思っているなら大きな勘違いですね。お客様だからといって、いつ来ても良いわけではありません。早く行き過ぎるのもお店の迷惑になる可能性があります。
【体験者:30代・女性自営業、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。