キャパオーバー寸前の毎日
入社1年目の私は、厳しい上司の指導についていくのが精一杯でした。
上司の指導はいつも的確で、決して理不尽なものではありません。
筋も通っているし、私が成長するために必要なことだと頭では理解していました。
けれど未熟だった当時の私には、次々と飛んでくるダメ出しが、自分を否定されているように思えて、心はどんどん疲弊していくばかりでした。
毎日が綱渡りのようで、常に漠然とした不安を抱えていたのです。
まさかの誤送信! 血の気が引いた瞬間
ある日のこと、ついにストレスがピークに達した私は、仲のいい同期に愚痴を聞いてもらおうと、休憩時間に社内メールを開きました。
「上司の指示が細かすぎて無理」などと、日頃の鬱憤を書きなぐり、勢いそのままに送信!
しかし、何気なく送信済みのメールに目を通した瞬間、全身から血の気が引いていくのが分かりました。
送信先が、同期の名前ではなく、「全社員メーリングリスト」になっていたのです。
頭の中は真っ白になり、心臓がバクバクと暴れるのを感じました。
上司の「神の一言」
すぐにオフィスがざわつきはじめ、小声や笑いをこらえる声があちこちから聞こえてきます。
背中に無数の視線が突き刺さり、私の手のひらには冷たい汗がにじみました。
「終わった……もう会社にはいられないだろう」と絶望したそのとき、張本人の上司が席を立ち、静かに私を見て、「ちょっとこっち来い」と一言。
凍りついたようなフロアの中で、私は俯いたまま上司の席まで行きました。
上司は呆れたようなため息をつき、自分のパソコンの画面をこちらに見せました。
そこには、彼がすでに全社員宛に送ったメールが。
読んでみると、「全社員の皆様へ」という件名で、「メールの宛先は指差し確認! あと、俺の悪口はもっとクリエイティブに頼みます(笑)でも言いたいことはどんどん言ってくれてOK!」と書かれていたのです。
大失敗がくれた上司への信頼と憧れ
上司のメールを読んだ瞬間、一瞬にしてフロアの空気が和み、クスクスと笑いが広がりました。
私の大失態をユーモアで受け止め、笑いに変えてくれたその対応に胸が熱くなり、安堵の涙がこぼれました。
そして、心の底から「申し訳ありませんでした」という言葉が口をついて出て、私は深く頭を下げていました。
あの日以来、私は上司の厳しさの裏にある誠実さと懐の深さを、心から尊敬するようになりました。
大失敗から得たのは恥ではなく、上司への確かな信頼と憧れだったのです。
このときの経験は、今でもかけがえのない宝物になっています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。