入社直後の歓迎会で
新卒で配属された部署の歓迎会に参加したときのことです。
お酒も入り、緊張もほぐれてきた頃。向かいに座っていた部長が私の顔をじっと見つめ、「ちょっとセクハラみたいなこと言うけど……」と前置きをしてから、「君、俺が大学時代に付き合っていた女性にそっくりなんだよなぁ」と話し始めました。
私は「よくあるお決まりのセリフかな」と、愛想笑いで軽く流そうとしていたのですが……。
過去が繋がる瞬間
部長の話はさらに続き、やがて耳を疑うような言葉が飛び出しました。
「○○大学のテニスサークルで、大会で賞まで取った上手な女性でね」
その瞬間、私の心臓はドクンと大きく跳ね上がりました。
「○○大学のテニスサークル」「大会で賞」……その2つの情報が、私の母の若い頃の経歴と、ぴたりと一致していたからです。
驚きと笑いの渦
「もしかして、その女性の名前は□□ではありませんか?」
私が前のめりになって聞くと、部長は目を丸くして「そうだよ」と返答。
確信を持った私は、「それ、たぶん私の母です!」と思わず大声を出してしまいました。
私の告白に、部長はビールジョッキを落としそうになるほど驚いていました。
その場の同僚たちは「えー!」と大騒ぎ。
先ほどまで上機嫌で話していた部長は急にしおらしくなり、「お、お母様は……お元気で……?」と尋ねてくる始末。
まさか上司が母の元カレだったなんて。
世間の狭さに本当に驚きました。
時を経て交差する縁
家に帰って母にこの出来事を話すと、母は「えー! 彼が部長!? 懐かしいわねぇ!」と爆笑。
「幸せにしてるなら良かったわ」と目を細め、真面目でいい人だったのよ、と屈託なく振り返っていました。
翌日、先輩からも「部長、真っ青になってたな~。でもあの人、奥さん命で有名だから大丈夫!」と聞き、一安心。
母も部長も今は円満な家庭を築いているからこそ、気まずさよりも笑いが勝った思い出として、忘れられない社会人デビューの夜になったのでした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。