大好きな人と過ごした思い出は、ずっと心に残り続ける宝物になります。
認知症になった筆者の祖母は、孫の顔や名前を忘れてしまいましたが……
今回は筆者が祖母の施設に面会に行った時の出来事です。

大好きな祖母

私の母方の祖母は、85歳を迎えた辺りから認知症の症状が見られ、そこから緩やかに進行、数年後には自分の子供たちのことも分からない状態になりました。

そんな時期に施設への入所も決まり、結婚前の私は折を見て祖母に会いに行っていました。
おそらく私が孫だということは分かっていなかったと思いますが、面会に行くといつもにこにこと嬉しそうにしてくれました。

その後結婚と共に地元を離れたため、今までのように会いに行くことは出来なくなりました。
やがて娘を出産、生後半年の頃帰省したタイミングで、祖母に会いに行くことに。

会うのは約2年ぶりです。

久しぶりに見た祖母は自力では歩けなくなっていました。
「ばあちゃん、見て、私の子供だよ」
私は椅子に座っている祖母に娘を差し出しました。

重なる記憶

祖母は娘を受け取って膝に抱くと、
「よく来たね、詩織(私のことです)。ばあちゃんと散歩に行こうか」
と娘に笑顔で話しかけたのです。

祖母の口から私の名前が出たことに驚きました。
娘は私によく似ています。
祖母の中で、古い記憶の糸が繋がったのでしょうか。
思えば祖母は私を小さい頃からとてもかわいがり、慈しんでくれました。

今自分の膝の上にいるのが私だと思っているのかな……

思い出はずっと心の中に

気が付くと、私は涙が止まらなくなっていました。

認知症が進み、私のことも分からなくなってしまった時はとても悲しかったですが、記憶の底に確かに孫との思い出が残っていたことを知り、胸がいっぱいになったのでした。

【体験者:40代・筆者、回答時期:2025年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:田辺詩織
元医療事務、コールセンター勤務の経験を持つ在宅ワーカー。文学部出身で、文章の力で人々を励ましたいという思いからライターの道へ。自身の出産を機に、育児ブログを立ち上げ、その経験を生かして執筆活動を開始。義実家や夫、ママ友との関係、乳幼児期から中学受験まで多岐にわたる子育ての悩みに寄り添い、読者が前向きになれるような記事を届けている。