筆者の体験談です。
秋の行楽シーズンに、新人の一言に職場中がざわついたことがありました。
紅葉狩りをめぐるやり取りで、日本語の難しさを痛感したのです。

忙しい秋に飛び出した一言

旅行会社に勤めていた頃、秋は「紅葉狩り」ツアーや紅葉名所の宿泊予約が相次ぎ、電話が鳴りやまない毎日でした。
そんなある日、新人オペレーターがふと真顔で口にしたのです。

「紅葉狩りって、あんなにたくさんの人が行って…紅葉なくならないんですか?」
あまりに唐突な疑問に、私は思わず手を止めました。

先輩まで真剣にうなずいて

「紅葉が無くなるってどういうこと!?」
驚いて顔を上げると、隣にいた先輩までも
「ほんとやね〜。枚数制限とかあるんかな?」
と真剣に返しています。
冗談かと思いきや、どうやら二人とも本気。

さらに新人は心配そうに身を乗り出し、続けました。
「観光バスで来た人がみんな持って帰ったらどうなるんです?」
その必死な表情に、私は返答に困り、苦笑いしながら言葉を探すしかありませんでした。

「はげ山になる!?」に頭を抱える

会話は止まらず、新人はますます不安そうに言葉を重ねました。
「みんなが持って帰ったら、木からなくなって……はげ山になるんじゃないですか?」
横で先輩まで
「そうなったら、後から行く人がきれいな紅葉見られんやん」
と真顔でうなずいている始末。

私は心の中で「どんな山狩りやねん!」と全力で突っ込みながら、慌てて説明しました。
「紅葉狩りは観賞する行事で、葉っぱを持ち帰るのは禁止なんだよ」と。

最後に残った「紅葉見」の謎

ようやく納得したかと思えば、今度は
「桜を見るのは花見なのに、なぜ紅葉見じゃないんですか?」
とキラキラした目で新たな疑問を投げかけてきます。
思わず
「確かにそうだけど……」
と口ごもり、私は答えに詰まりながらも、最後にこう念を押しました。

「とにかく、お客様に“紅葉をたくさん取れるといいですね”とは言わないようにね」
笑いと困惑が入り混じったやり取りを振り返りながら、素朴な疑問に振り回されつつも、日本語の美しさと難しさを改めて実感した出来事でした。

【体験者:50代女性・筆者、回答時期:2025年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。