「良かれと思って」という呪いの言葉
昔から、母は事あるごとに「太ったんじゃない?」「そんな服を着てみっともないわね」と私のこと値踏みし、「そんなの似合わないわよ」と、化粧や髪型を否定してきました。
少しでも反論しようものなら「良かれと思って、あなたのために言っているのに」の一点張り。
悪気がないのは分かるのです。
だからこそ、私はいつも曖昧な態度で、その場をやり過ごしてきました。
婚約者への心無い一言
しかし、そんな私の我慢は、ある日限界を迎えてしまいました。
結婚を決めた彼を、初めて母に紹介した日のことです。
緊張する彼を前に、母は最初こそにこやかでした。
ところが、ほっと胸をなでおろしたのも束の間、彼が少し席を外した瞬間、母は私の耳元で囁いたのです。
「本当にあの人でいいの? わざわざあんな平凡な人を選ばなくても、あなたなら、もっと条件のいい人がいるでしょうに」
血の気が引きました。
私のことならまだしも、彼のことまでそんな風に言うなんて。
本当に私のため?
地獄はそこからでした。
彼が席に戻ると、母は満面の笑みでこう言ったのです。
「〇〇さん、この子、本当にズボラなの! 結婚したら大変よ〜。やめといたほうがいいんじゃないかしら?」
彼の引きつった笑顔。凍りつく場の空気。
私の幸せを一番応援してくれるはずの母が、その手で全てを壊していく……。
もう、無理だと思いました。
悟った“愛情の正体”
彼が帰った後、私は珍しく母に声を荒らげました。
「どうして私の幸せを素直に喜んでくれないの!?」
涙でぐちゃぐちゃになりながら叫ぶ私に、母はきょとんとした顔で言いました。
「良かれと思って、本当のことを言っただけじゃない」
その言葉で、私はようやく気付きました。
これは愛情ではない。
娘を自分の価値観に閉じ込めておきたいという、歪んだ支配欲なのだと。
「もう、私の人生に口出ししないで」
そう告げて、私は母との距離を取ることを決めました。
たとえ母が「良かれと思って」いても、母がそばにいては、私はいつまでも幸せになれないと悟ったのです。
以来、母とは疎遠なままです。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。