野菜や魚を息子夫婦にお裾分け
家庭菜園にハマった私は、近所に小さな農園を借り、季節ごとの野菜を育てて楽しんでいました。
最初はまったく採れなかった野菜も、年を追うごとにコツをつかみ、驚くほど収穫できるように。
一方の夫は釣りが趣味で、釣った魚を大量に持ち帰ってきます。
私たち夫婦だけでは到底食べきれないため、近所に住む息子夫婦へ差し入れするのが習慣でした。
お嫁さんは「いつもありがとうございます」と笑顔で受け取ってくれ、それがうれしくて、つい頻繁に持って行ってしまっていました。
旅行帰りに渡した“名産野菜”
ある日、旅行先で名産の野菜を見つけた私。
これはきっと喜ぶだろうと、帰宅後すぐにお嫁さんの家へお裾分けに行きました。
すると、彼女は少し困った顔をして言ったのです。
「いつもお裾分けしてもらえてうれしいです。でも、お返しのことを考えると申し訳なくて」
「お返しなんて考えなくていいのよ。食べてもらえたらそれでうれしいんだから」と私は笑って返しましたが、お嫁さんは「そういうわけにはいきません。本当に申し訳なくて……」と、今にも泣き出しそうになっていました。
お嫁さんの一言にハッとした瞬間
そのとき初めて、私は気づいたのです。
思い返すと、お嫁さんは、もらったその日のうちに立派なお菓子や果物を持ってきてくれることが多くありました。
私は「気を遣わないで」と軽く話していましたが、彼女は私たちが何か持っていく度に、わざわざお返しを買いに行ってくれていたのです。
私にとっては“ついで”の差し入れも、彼女にとっては“毎回お返しを考える”という負担になっていたのでしょう。
その日以来、差し入れは特別なときだけにすることに。
畑などでたくさん採れたときは、「自分たちで食べきれない分だけ」「お返し不要」を必ず添えて渡すようにしました。
よかれと思ってしたことが、相手にとっては重荷になることもある。お嫁さんと言えど、距離感が大切だと学んだ出来事でした。
【体験者:60代・女性パート、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:Yuki Unagi
フリーペーパーの編集として約10年活躍。出産を機に退職した後、子どもの手が離れたのをきっかけに、在宅webライターとして活動をスタート。自分自身の体験や友人知人へのインタビューを行い、大人の女性向けサイトを中心に、得意とする家族関係のコラムを執筆している。