悠々自適な老後生活
私の祖母は、いわゆる“大地主”。
近隣のスーパーやコンビニに広い土地を貸していて、毎月安定した収入があります。
時期になると、スーパーの店長が「今年もありがとうございます」とお中元を持ってやってきます。
祖母はそのたびににこやかに対応し、「いつもご苦労さまです」と穏やかに対応。
お金には困っていない。立派な家もあり、趣味も充実していて、悠々自適の老後だと、私は思っていました。
まさかのパート宣言!「スーパーで働くわ」
けれどある日、祖母が突然仕事を始めると言い出したのです。
「スーパーで、資源ごみの分別を手伝うことにしたの」
は? と思った私。なぜいまさら? しかも、資源ごみの分別?
祖母は十分な資産を持っていて、働く必要はまったくありません。
資源ごみのペットボトルや段ボールを整理するなんて、正直言って信じらませんでした。
「誰かの役に立てるの、うれしいのよ」と、祖母は言って笑っていましたが、私は「変わってるなぁ」と思うばかり。
資源ごみ分別の現場で見た、祖母の姿
それから数日後。
用事でスーパーに立ち寄ると、資源ごみコーナーで見覚えのある後ろ姿が目に入りました。祖母でした。
帽子をかぶり、エプロン姿で、ごみの分別をしています。
そこへ、ひとりの高齢女性が袋を抱えてやってきました。
「あら、Aさん。今日も暑いですねぇ」
「あなたがいてくれて助かるわ。ペットボトルのラベル、どうやって取るのか分からなくて」
祖母は慣れた手つきで手伝いながら、丁寧に応じていました。その会話の中に、笑顔があり、地域のつながりがありました。
祖母が選んだ「仕事の意味」
ああ、こういうことだったのかと私は腑に落ちました。
祖母にとっての「仕事」は、お金のためじゃなく、町の一員として関わること、誰かの役に立つことだったのです。
そんな祖母の背中に、年齢や立場に関係なく、仕事は尊いものなのだと教えられたのでした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:Yuki Unagi
フリーペーパーの編集として約10年活躍。出産を機に退職した後、子どもの手が離れたのをきっかけに、在宅webライターとして活動をスタート。自分自身の体験や友人知人へのインタビューを行い、大人の女性向けサイトを中心に、得意とする家族関係のコラムを執筆している。