一方的な「ルール宣言」
息子が中学2年生の頃のことです。
返却された数学のテストを見て、私は頭に血が上るのを感じました。
長時間ヘッドホンをつけて友達としゃべりながら、夢中でゲームをしているのは知っていました。
でも、勉強にここまで影響するなんて……。
「このままではいけない」と感じた私は、リビングでゲームを始めようとしていた息子の前に仁王立ちし、有無を言わさずテレビの電源をオフ!
驚く息子を睨みつけ、一方的に宣言したのです。
「今日からゲームは1日1時間。破ったら即没収!」
息子の意見を聞く余裕は、そのときの私には一切ありませんでした。
落ち続ける成績と、凍りついていく関係
設けたルールは、息子から猛烈な反発を招きました。
息子は私の目を盗んで隠れてゲームをし、平気で嘘もつくように。
親子関係は急速に冷え込み、リビングでの会話もなくなりました。
「息子のことを思ってのことなのに……」という私の親心は空回りし、成績は上がるどころかむしろ急降下。
自室に引きこもる息子を見てはため息をつく日々が続き、悪循環が生まれていました。
夫の一言がきっかけに
ある夜、もう見ていられないという様子で、夫が私に言いました。
「きみはゲームを敵だと思ってるだろ。でも息子にとってゲームは、友達と繋がるためのツールで、大切な世界なのかもしれないよ」
その言葉に、私は自分が「毒親」になりかけていたことに気付き、震えました。
私は息子の価値観を理解しようともせず、ただ自分の物差しで正義を振りかざしていただけだったのです。
信頼を取り戻すために
次の日、私は息子の気持ちも聞かずに一方的にルールを押し付けてしまったことを謝りました。
そして、「ママにも、そのゲームのこと教えてくれない?」と頼んでみたのです。
最初は戸惑っていた息子でしたが、やがて少しずつ自分の「世界」について語ってくれるように。
共通の話題が、凍り付いていた関係をゆっくりと溶かしていきました。
ルールは「親子で話し合って決める」形に改めると、不思議なことに息子の成績も少しずつ上向き、何より親子の信頼を取り戻せたのです。
力で押さえつけるのではなく、子どもの世界に寄り添い、信頼を築くこと。
それこそが、親が本当にすべきことだったのだと、今は思います。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。